6*君に決めた


「あれ、勝己?おはよ!」

「…遅ぇ。」

朝、学校の最寄駅の改札を出ると、爆豪がスマホをいじりながら柱に寄りかかっていた。
なまえは片手を上げながら近づき挨拶をすると、小さく挨拶?が返ってきた。

「誰かと待ち合わせ?」

「あ?行くぞ。」

もう待ち合わせて登校するくらい仲が深まった友人ができたのかと問えば、眉間に皺を寄せた。
スマホをしまい、そのままポケットに手を突っ込んで歩いて行く。どうやらなまえを待っていたらしかった。

「なんか、小学生の時みたいだね!」

「はっ、てめぇはガキんまんまでも、こっちはちゃんと成長してんだわ。」

ベッと舌を出して否定する爆豪だったが、なまえは目を閉じて何度か頷いた。

「うーん、なんというか、そういうみみっちぃとこが変わってなくて、不思議とホッとしてる。」

「あ!?前見て歩かねーで転んでも知らねーからな!」

怒鳴りつつも、車道側をキープして歩く爆豪に、なまえは笑った。



「うっわ、なんだこれ。」

眉間に皺を寄せ、思わずこぼしたのはなまえ。隣を歩く爆豪は、舌打ちをしながらもいつも通り進んで行く。

学校がマスコミで溢れかえっていた。なんだ、と思ったのも一瞬で、今朝のニュース番組を思い出す。
"あのオールマイトが雄英の教師に就任した"と大々的に報道されていたのだ。LIVE中継もしていたのを見たのに、すっかり忘れていた。
爆豪の影に隠れるようにしてマスコミの横を通り抜けるなまえ。

「オールマイトの授業はどんな感じですか?」

「教師オールマイトについてどう思ってます?」

「オールマイト…あれ!?君『ヘドロ』の時の!!」

「やめろ」

ぽんぽんと質問を投げかけるマスコミに基本無視を決め込んで歩いていた二人だったが、『ヘドロ』に反応する爆豪。
ぐぎぎと歯を食いしばって耐えていた。

雄英バリアの中へ入り、なまえが爆豪を見ながら言った。

「『ヘドロ』の時って何?」

「……なんでもねぇよ。」

爆豪の眉間の皺が深くなったので、なまえはそれ以上聞くのをやめた。

「あ、ねぇ、もしかして、こうなってるのを予想して私のこと待っててくれたの?」

ふと気がついて爆豪に問いかける。朝のニュース番組はどのチャンネルもこの話題で持ちきりだったし、きっとこの状況も予想できた。

「優しいね、勝己。」

「うっせ。」

肯定も否定もしない、ということはそういう事だ。

「こんなに集まるなんて、オールマイトはすごいねぇ。」

なまえのその言葉には反応はなく、独り言のように消えていった。



「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見させてもらった。」

ホームルーム早々に、相澤が爆豪と緑谷に苦言を呈する。確かに二人の闘いは強烈だったもんな、となまえは昨日のことを思い出していると、自分の名前が呼ばれて慌てて顔を上げた。

「それとみょうじ、お前、轟に任せっぱなしで何もしてないだろ。」

「え、それなら障子くんも、」

「障子は場所の特定してたろ。何もしてないのはお前だけだ。」

「うぐ…」

「たく、特別推薦入学が聞いて呆れるよ。手ぇ抜いてると、あっという間に皆んなに抜かされるから気を引き締めてやれよ。」

「…はい。」

相澤の放った"特別推薦入学"に少しクラスが騒ついた。特例中の特例、噂は本当だったんだ、と誰かが呟く。

「さて、HRの本題だ…急で悪いが今日は君らに…」

また臨時テストか、とクラスに緊張が走る。

「学級委員長を決めてもらう。」

学校っぽいのきたー!!と一気に盛り上がる生徒たち。勢いよく挙手しつつ自己PRを述べ始めるクラスメイトたちに、なまえは押され気味で苦笑いをした。

(お、出久も手を挙げてる!)

自分の少し前の席に座る緑谷が、控え目に挙手する姿を見て微笑む。

飯田の発案で、投票で決める事になった。ほとんどの者が自分に投票するのだろうが、なまえは別に学級委員長をやりたい訳ではなかった。むしろ面倒ごとは避けて通りたい。
誰に投票するか考えると、思い浮かんだ二人の幼馴染の顔。爆豪が学級委員長になろうものなら、このクラスは崩壊する。死人が出てしまうかもしれない。思わず頭を数回左右に振る。
緑谷なら、なんだかんだ上手くまとめられそうだ、と用紙に"緑谷出"まで書いて手が止まった。
少し思案した後、今書いた文字を全て消し、別の人物の名前を書いて投票した。

黒板に名前と票数が正の字で書かれていく。

「僕、三票ー!!?」

緑谷が驚愕の声をあげる。

「なんでデクに…!!誰が…!!

「まー、おめぇに入れるよかわかるけどな!」

爆豪も緑谷とは別の驚愕の声をあげる。瀬呂がツッコミを入れるが、それはお構いなしにぐるりと顔をなまえに向けた。

「なまえ、てめぇか!?」

「へ?違うよ。」

ぶんぶんと首を横に振り、直ぐに否定をしたなまえだった。

「じゃあ委員長 緑谷。副委員長 八百万だ。」

この人選に、なんだかんだ納得するクラスメイトたちだった。



昼休み、なまえは一人で食堂に来ていた。

「うーん、混んでるなぁ。出久に後で合流するって言ったけど、見つけるの無理じゃない、これ。」

美味しそうな匂いを漂わせている熱々チャーハンを乗せたトレイを持ち、辺りを見渡すなまえ。すると、緑谷ではなく、ツートンカラーのクラスメイトの姿を見つけた。

「あ、轟くん!前の席空いてる?座っていい?」

「…あぁ、好きにしろ。」

「はーい!好きにしまーす!」

ささっと座り「いただきます」と手を合わせてからチャーハンを頬張る。熱々だったため、少しもたつきながらも美味しい〜と表情を緩めた。

「それにしても混んでるね。」

「あぁ。」

「ランチラッシュの料理が学食で食べられるなんて最高だね。」

「あぁ。」

「蕎麦も美味しそうだね。」

「あぁ。」

一応、返事はするものの、会話のキャッチボールが成立しない。球が返ってこない。なまえもなんとなく思ったことを言っているだけで、心から轟との会話を楽しみたい訳ではなかった為、対して気にしなかった。

「実はね、私、轟くんに票を入れたんだ。」

「…あんただったのか。俺に入れたの。」

初めて轟が顔を上げてなまえを見た。少し驚いたような表情だった。

「うん、実は八百万さんの名前書いてるの見えちゃってさ。」

「同情票か。」

再び蕎麦をすする轟。なまえはそんな轟を見て少し笑った。

「ううん、轟くん見る目あるなぁ、て。」

ウウゥーーーーー

突然の警報音が鳴り響く。その音に一気に騒つく生徒たち。

「セキュリティ3が突破されました。」

「セキュリティ3?」

なまえが小首を傾げていると、アナウンスで屋外へ避難するよう指示がなされる。

「え、なに、なにがあっ…わ!ちょ、」

「みょうじ!」

一斉に避難を始める生徒たちだったが、若干パニック状態に陥っていた。その人の流れに飲み込まれるなまえ。なんとか轟がなまえの腕を掴み、引き寄せ守るように腰をしっかり抱いた。

「大丈夫か?」

「ありがと〜助かったぁ…」

下手に動くと二の舞になる、と二人は暫くその場で待機する事にした。
すると程なくして非常口の表示の上に、非常口みたいな格好をした飯田が立った。

「皆さん…大丈ー夫!!ただのマスコミです!」

その後、警察が到着してマスコミは撤退。
授業も通常通り行われ、他の委員決めを行った際、冒頭で緑谷は委員長の座を飯田に譲った。食堂での活躍を目撃した生徒も多く、異議を唱える者は居なかった。
なまえも小さく拍手をおくり、ふと窓の外を眺める。

(一体どうやって、ただのマスコミが雄英バリアを突破したのか…)

謎は残ったままだった。

2024.01.15*ruka



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*confeito*