5*今日の夕飯


「さぁ君たちも考えて見るんだぞ!」

オールマイトに連れられ、なまえたち他の生徒は地下のモニタールームへと移動した。
多くのモニターに映し出される通路や部屋。音声こそないものの、そこにはヒーロー組・敵組両方の姿も捉えられていた。

開始して直ぐ、ヒーロー組が建物に潜入する。通路を進む緑谷と麗日。

「いきなり奇襲!」

峰田の言葉通り、直ぐに爆豪が奇襲にかかる。一先ず緑谷が避けられた事に安堵するなまえ。
すると再び緑谷を狙う爆豪だったが、動きを読んだ緑谷が爆豪を背負い投げた。
なまえは目を見開く。自分が知らない間に成長している幼馴染の姿に。
しかし、戦えば戦うほどに爆豪の苛つきが増していく。二人が何を話しているのかわからないのがもどかしく、不安に駆られ手を胸の前で組み見守るなまえ。
爆豪が緑谷に籠手を向け、なまえは息を呑む。

「爆豪少年、ストップだ!殺す気か!」

オールマイトが無線で制止するも、次の瞬間、建物を抉る大爆発が起きた。青褪めるなまえは、立ち込める煙幕に支配されたいくつかのモニターを忙しなく見渡す。
暫くして晴れた煙幕の中に二人の影を見つけ、緑谷に直撃はしていない事が確認できた。

「爆豪少年、次それ撃ったら…強制終了で君らの負けとする。」

またも無線でオールマイトが爆豪に警告する。すると爆豪はシンプルに殴り合いへと持ち込んだ。が、殴り合いというより、リンチだという声が上がるほどに爆豪の一方的な攻撃が続いた。堪らず逃げ出す緑谷だったが、直ぐに壁に阻まれ爆豪と向かい合う。
モニターには何かを叫び合う二人の姿が映し出される。

「爆豪の方が余裕なくね?」

切島が呟き、なまえは幼い頃を思い出していた。

本人に言わないし、言う気もないし、聞いたこともないけれど、勝己は…出久を、恐れていた。

なまえはそっと目を伏せた。
もう、モニターを見ていられなかった。
見なくても、結果が予想できた。

程なくして、オールマイトが叫ぶ。

「ヒーローチーム…WIIIIIN!!」

なまえの予想は的中した。



負傷した緑谷は小型搬送用ロボに保健室へ搬送され、他の三人はモニタールームで講評を受ける。
八百万が的確な評価を述べ、オールマイトはほぼ言う事がなくなった。
爆豪は無言だった。次の第二戦はなまえの番の為、声を掛けられないまま移動した。



「さて、障子くんに轟くん!私らも頑張ろう!」

チームメイトの二人に言いつつ、なまえは自分の両頬をパチンと叩き気持ちを切り替える。幼馴染二人の様子が気になるが、一先ず授業に集中。軽く息を吐き、敵のアジトに入って行った。

「四階、北側の広間に一人。もう一人は同階のどこか…素足だな…透明の奴が伏兵として捕える係か」

障子が複製腕で敵の居場所を探り当てる。

「あ、透ちゃんか!うーん、これは厄介かも。どうしよっか?」

なまえは腕を組み首を捻り、轟を見た。

「外出てろ、危ねぇから。向こうは防衛戦のつもりだろうが…俺には関係ない。」

「………へぇ。じゃ、お言葉に甘えて!」

轟の指示通り、なまえはさっさと外に出た。それに障子も続く。

「わ、すごーい!一気に凍った!寒ーい!」

それは一瞬の出来事だった。なまえは丸ごと凍ったビルを見上げてはしゃぐ。

「楽ちんだったねぇ、障子くん!」

「あ、あぁ。」

あはは、と笑いながら障子に振るなまえ。再びビルを見上げて呟いた。

「見事に氷"だけ"でねぇ。流石、あの人の息子…て言ったら怒るのかな。」

『ヒーローチームWIN!!』

無線からオールマイトの声が響いた。



その後も滞りなく他グループの訓練が行われた。
オールマイトは緑谷に講評を聞かせるから、とめちゃくちゃ足早に去っていった。

なまえは隣に立つ爆豪を横目で見る。とても話しかけられる雰囲気ではなかった。
目線を地面へ下げ、良い機会なのかも知れないと思い直す。
爆豪が、前に進むための。



放課後

保健室から戻った緑谷をクラスメイトは歓迎した。みんなに矢継早に声をかけられるが、視線で二人の人物を探すも見つからなかった。

「かっちゃんと、なまえちゃんは…?」

怪我を心配して寄ってきた麗日に緑谷が問う。

「なまえちゃんは先生に呼ばれてるからって職員室に行って、爆豪くんは皆止めたんだけど、さっき黙って帰っちゃったよ。」

緑谷は爆豪の後を追った。



職員室の相澤の事務机には、背中を丸めて突っ伏すなまえの姿があった。

「あら、なまえ?相澤くんならまだ暫く会議終わらないわよ。」

授業から職員室に戻ってきたミッドナイトこと香山が、丸い背中に声を掛けた。

「……睡さん。」

なまえがのそりと顔を上げる。

「珍しく元気ないわね。悩み事?」

持っていた教科書を自分の机に置くと、なまえの近くに来て頭を撫でた。
撫でられながらなまえは考える。これは悩みなのだろうか。
体をボロボロにしながら進む幼馴染その一と、恐らく今日心がボロボロになった幼馴染その二。自分にできる事は何もない。ただ見守る事しか出来ない。答えは出ていた。

「…今日の夕飯何にしよっかなって。」

えへ、と笑うなまえに、香山は優しく微笑む。

「…そ。なら、なまえが好きなものになさい。」

「うん…そうする。」

深く言及しない香山になまえは心の中で感謝した。

2023.12.21*ruka



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*confeito*