◆ 双黒クラシコ 壱


「失礼します。中也さん、お車の準備ができました。」

控え目なノックの後に顔を覗かせたのはなまえ。
部屋の中には目当ての人、中原と太宰も居た。

「解った、直ぐ行…」

「なまえ!本当に今日の任務、中也と二人で平気?何なら私も一緒に行くよ。と言うか心配でならないのだけれど。」

中原の言葉を遮り、扉の向こうに居るなまえに駆け寄る太宰。
透かさずなまえの手を握っている。
なまえも慣れている様子で、笑顔の儘、太宰の手をやんわりと剥がす。

「太宰さん、お気持ちだけで結構です。今日の太宰さんのお仕事は首領の付き添いです。よろしくお願いしますね。」

拗ねる様な素振りを見せる太宰の肩を後ろから叩く中原の表情は、とても愉しそうだった。

「俺が一緒なんだ、心配すんな”太宰さん”。」

嫌味たっぷりの中原の言葉に、太宰はムッとした表情を向け肩に置かれた手を振り解く。
太宰はなまえの肩を抱き寄せ、中原に人差し指を突きつける。

「だからこそ心配なのだよ!なまえと飢えた獣の様な中也が二人っきりで任務だなんて!私は断固反対だ!」

「太宰、手前…さっさとその汚ぇ手を離しやがれ。」

いがみ合う二人に小さく溜息を吐き乍ら、自ら太宰の手から逃れるなまえ。そのタイミングで中原がなまえの右手首を掴み部屋から退室した。
中原に引かれる様に小走りで後を付いて行くなまえは振り返り、未だ文句を言っている太宰にぺこりと頭を下げた。

「ったく、太宰の野郎に構ってるとキリがねぇ。」

準備した車の助手席に乗り込んだ後、舌打ちと共にぼやく中原を横目に運転するなまえ。視線は前に向けた儘答える。

「喧嘩する程仲が…」

「やめろ、その先は言うな。虫唾が走る。」

心底嫌そうな声色だった為、なまえは言葉を飲み込み無言で頷いた。
代わりに違う質問を投げ掛ける。

「そういえば、お二人で何をお話しされてたんですか。」

「………なまえには関係ねぇ事だよ。」

「…そう、ですか。失礼しました。」

その後は無言の儘、車は目的地へと向かった。



なまえが訪れる前の室内…−
車を待つ中原がソファに座り、太宰はそのソファの反対側から背凭れに腰掛けて居た。

「今日はなまえと二人で任務だってねぇ、中也。特別に代わってあげようか。」

「は、莫迦言え。誰が代わってやるかよ。」

高い位置から見下ろす太宰に、ニヤリと不敵な笑みを向け答える中原。
なまえは首領、幹部、準幹部等の秘書兼補佐役を担っている上級構成員だ。人当たりも良く、一見ではポートマフィアとは解らない風貌だが、頭が切れ、拳銃の腕前も相当のものという事もあり、今のポジションに就いていた。
上にも下にも分け隔てなく接するなまえは、構成員達の憧れの的だった。
そして一般構成員達よりもなまえと任務を共にする機会が多い中原や太宰も例外ではなく、なまえに惹かれていた。

「…ねぇ、”双黒クラシコ”って知ってる?」

「あ?なんだそりゃ。」

太宰の突然の質問に首を傾げる中原。双黒と言ったら己らの総称という事の認識は在ったが、クラシコが解らなかった。

「構成員達の間で賭けになっているらしいよ、私たち。」

クラシコという位だから、其処までは想像がついた。然し、賭けの対象になるようなものなんて…と考え込んだ中原は、思い当たる節が見つかり真逆と顔を上げる。

「まったく、野暮ったい話だよ。"私と中也の何方がなまえを落とすか"だなんて。」

溜息交じりに太宰が吐き捨てる。中原は矢張りと顔を引き攣らせながら天井を仰いだ。

隠していた心算は無いが、公言した訳でも無い。それは太宰も同じ事。然し周りにはバレバレで、強いて問題を挙げるとするならば、当の本人が全く気付いていないという事。
周囲が面白がって賭けをし始めるのも納得がいった。
されど良い気はしていなかった。

「因みに、オッズが高いのは君だ、中也。」

ふふん、と得意気に鼻を鳴らす太宰から視線を逸らす。

「何処の誰がいくら賭けてんのか知らねぇが、手前に賭けた奴等は大損だな。」

「…其れは宣戦布告として受け取っておくよ。」




2018.07.04*ruka


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*confeito*