◆ 恋仲っぽく


「黄昏時か…なまえさん、家まで送ります。」

すっかり話し込んでしまった。見れば外は夕陽で綺麗な橙色をしていた。

「え、悪いからいいよ。」

送ると言ってくれた芥川くんに、正直嬉しい気持ちがあった。
暗くなってから一人で歩くのは、今日の一件で少し怖かったから。
でも子供じゃないのだから、気持ちだけ受け取ろうと思う。

「若しこの店からの帰り道に、なまえさんに何かあったら、僕が太宰さんに殺される。」

「アハ、ハハ」

否定できないし、笑えない。
仮に転んで怪我をしただけだとしても、太宰はそれを知ったら家まで送らなかった、芥川くんをトコトン責めそうだ。
謎だが、太宰の莫迦がつくほどの過保護っぷりは、今に始まったことではない。
そんなことを考えていると、先に席を立った芥川くんが手を差し出してきた。
不思議に思い芥川くんを見上げると、そっぽを向いて耳を真っ赤にしていた。

「ま…周りから、恋仲と思われれば、絡んでくる輩も、事前に防げる、と…それだけで、他意は…ありません。」

ゴホゴホ咳き込みながら、辿々しく言うから可笑しくて。
でも笑ったら拗ねて手を引っ込めちゃいそうだったから、必死に笑いを堪えて優しい手を取った。

「ありがとう。じゃあ帰ろう、龍之介くん。」

「なっ…!」

「その方が、恋仲っぽいでしょう?」

更に顔を真っ赤に染める姿が可愛くて、つい揶揄ってしまう。
でも握った手は離されることはなく、芥川くんは確り私を家まで送り届けてくれた。
喫茶店を出てから家に着くまでずっと、誰かに見られているような気がしたけれど…
屹度、気のせいだろう。
そして、私の休日は終了となり、眠りについたのだった。


2019.06.15*ruka



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*confeito*