◇ 優しい皺
芥川くんは、無言で私の隣に座った。
顔は眉間に皺が寄ったままだったが、先までの怒りとは別の、多分これは、心配からくる表情だと思う。
「すみません、僕がもう少し早く声を掛けていれば…」
ほら、こんなにも優しい声で、全然芥川くんは悪くないのに自分を責めている。
テーブルの下に隠した震えはとっくに見つかってしまっていたみたいで、芥川くんがそっと手を重ねてくれた。
「大丈夫、ちょっと吃驚しただけ…すぐ治まるから。」
芥川くんの優しい対応に酷く安堵して、弱く握り返し、少しだけその優しさに甘えさせてもらうことにした。
「ごめん、やっぱりもう少し、このまま、いいかな。」
「……無論です。」
そういった彼の頬は、若干血色が良くなったから、こっそり笑った。
それから暫く話をして過ごした。
話題は専ら太宰のことだった。
芥川くんは本当に太宰のことが好きなんだなぁ。
一歩間違えれば犯罪になりそうなレベルで観察している…少しだけ心配。
2019.06.13*ruka
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*confeito*