◆ つまりは君が大切だから


柔らかい感触は瞼にも降ってきて、鼻先に触れたかと思うと、かぷりと食べられてしまった。
吃驚して首を左右に振り逃れると、太宰はまた笑って、私の頭を抱きかかえた。

「大丈夫、結構今の学園は気に入っていてね。織田作もいるし、林檎自殺倶楽部には入らないよ。」

安心して、と耳元で囁かれると、不思議と安心してしまう自分の単純さ。

「何より、なまえをあの蛞蝓から守らないと。」

守られるようなことは何もないけれど、それが繋ぎ止める理由になり得るのならば、それでもいいと思った。

「約束、ね。」

顔を上げて太宰の額と自分の額とを合わせて言うと、柔らかな笑みが返ってきた。
どうやら太宰の機嫌は完全に元通りになったらしい。


2019.08.19*ruka



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*confeito*