◆ 足元を掬われぬよう


「いや、失礼。あまりに太宰くんが必死なので、つい…こんな姿の太宰くんを見られただけでも収穫です。」

フョードルは軽く息を吐いて、にこりと微笑む。

「確かに、我々の勧誘対象は太宰くんですが、彼女にはぼく個人が興味を抱いているのです。この国ではよく言うのでしょう、好意を抱いている相手に銃を向けてしまう、と。刀でしたか?」

「言いたいことは解った、君にそんな感情があったとはね。」

太宰もフョードルも表情は穏やかで、側から見ていれば、友人同士の語らいの一時にしか見えなかった。すると太宰が静かに言う。

「特別に教えてあげよう、私が何故なまえの存在を君に教えたと思う。」

今度はフョードルの顔から表情が消える。じっと太宰を見据えて続きを促す。

「君に知られたところで、守る自信があるからさ。」

太宰は不敵な笑みを浮かべた後、くるりと反転し、来た道を戻っていった。フョードルはその背中に手を振り呟く。

「自信があるのは結構、呉々も…」


2020.03.08*ruka



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*confeito*