◇ 帰り道 2


強気に踏み出した一歩だったが、後ろから柔らかく抱きしめられ、呆気なく阻止される。

「ねぇ、一つお願いをするよ。」

私の頭上に顎を乗せ、甘えた声で話す太宰は珍しく、不覚にも少し、ほんの少しだけ、可愛いと思ってしまった。

「私をずっと、なまえの傍に居させておくれ。」

背中から太宰の心臓の音が伝わってくる。
少し早いかな。
私の音も伝わってるのだろうか。
おかしい、太宰相手にこんなにも心臓が煩いのはおかしい。
抱きつかれるなんていつもの事。

「し、知らないっ!」

「なまえ、耳真っ赤だよ。」

ほぼ反射的に太宰の腹部へ肘鉄を喰らわす。
太宰は変な声を上げ、体をくの字に折る。
なんだか今日は変な一日だ。
太宰がやたらとくっついてくる…否、くっついてくるのはいつも通りだけれど、今日は変なのだ。
痛がる太宰を置いて歩き出す。
太宰は脇腹を摩りながら追い掛けてくる。
仕方ないので、少しゆっくり歩く。
すると太宰は嬉しそうに微笑みながら言うのだ。

「明日も、桜の木の下で待っているからね。」


2018.10.20*ruka



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*confeito*