◆ 反則


「中也、今朝忠告したばかりだよね。
それとも矢っ張り蛞蝓の脳ミソでは人間の言葉は難し過ぎたかな。」

太宰が珍しく真剣に話をしていた。
再び周囲がザワつく。中原くんが太宰の手を振り解き反撃する。

「手前の忠告なんざ、初から聞く気ねぇよ。
だがな、俺には俺の守り方があンだよ。」

二人が何を話しているのか解らなかった。
忠告?守り方?何にせよ、私の頭上でガチの喧嘩はやめていただきたい。
ここは私がハッキリ言うべきか。

「太宰、あのね」

「なまえは黙ってて。」
「みょうじは黙ってろ。」

何そのシンクロ率。
二人から同じタイミングで黙ってろと言われてしまっては、閉口せざるを得ない。
また言い合いを再開してしまった二人を見て、ふと思った。

太宰がこんなにムキになって怒るって珍しいなぁ。
ひょっとして、冗談ではなく、本当に…

「ありがとう、太宰。」

私の零す様な一言に、二人はぴたりと止まる。
太宰に向き直り、顔を見上げる。

「本当に心配してくれたんだよね。ありがとう。」

感謝の気持ちを込めて、笑顔で伝える。
太宰は何度か瞬きした後、包帯が巻かれた手で口を押さえるようにして言った。

「なまえ…その上目遣いは反則だよ。」

目線を逸らし、顔を赤くしながら言う太宰もまた珍しく、頭でも打ったのかと心配になる。
今日はレアな太宰がたくさん見れる日だなぁ。
呑気にそんなことを考えていたら、本鈴が鳴った。
太宰は顔を赤くしたまま中原くんに文句を言いつつ、自分の教室へ戻っていった。
何回か物にぶつかる音が聞こえたけれど大丈夫だろうか。

「変な太宰。」

思った儘を口にすると、中原くんが私を見て言った。

「みょうじってすげぇな。」


2018.10.31*ruka



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*confeito*