◇ 三限目
現代文の授業は好きだった。
文豪たちの名作を学び、彼らの思惟に触れるのは、知的欲求を満たされる感覚があった。
欲を言えば、担当教師が織田先生だったら、もっと好きになってたかも。
独特の雰囲気があるけれど、文学への愛情を感じる。
今日の題材は、夏目漱石先生の代表作「坊ちゃん」。
担当教師は生徒に音読させるスタイル。
中原くんが指名された。
転校初日に指すとは、なかなかスパルタだな。
中原くんは返事はせずに怠そうに起立し、片手で教科書を持つ。
もう片方の手はポケットの中。
なんて不良的。
でも音読する声は全然不良とはかけ離れていて、落ち着いた声色に適度な早さ。
ずっと聞いていたいと思った。
中原くんの後ろ姿を眺め、うっとりとしてしまった。
すると中原くんが振り返り、私を見る。
背中に目があるの?見つめすぎた?
真逆、振り向くとは思わなかったから、心臓が跳ね上がる。
「おいみょうじ、次は手前だ。」
「へ?」
中原くんの美しい音読に聞き入ってしまい、自分が指名されたことに全く気づかなかった。
恥ずかしい。
私の音読はボロボロだった。
嗚呼、先生は意地悪だ。
もっと聞いていたかったのに。
2018.10.04*ruka
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*confeito*