◆ 甘い香りは甘い時間


ぐうぅぅ

突然の空腹音に二人して目を丸くする。
暫しの沈黙の後、弾けたように太宰が笑い出す。
タイミングが良いのか悪いのか、ここで鳴るかと、お腹を抱えた。
熱は一気に顔に集中し、恥ずかしさから俯く。
笑い続ける太宰に、恥のついでだと控え目に申し出る。

「あの…猪口冷糖、戴いてもよろしいでしょうか……」

「あはは!いいよ、沢山お食べ。」

泣くほど面白かったのか、目元を軽く掬い上げながら太宰が了承した。
楽しい一時を提供できて何よりですよ。
私は開き直り、一番大きい箱に手を伸ばす。
にこやかな太宰の視線を無視して開封すると、私の両手一杯くらいの猪口冷糖が入っていった。
ハァト型の板猪口冷糖の厚さは常識の範囲ではあるものの、中々の食べ応えを予感させる。
表面には苺の乾燥果実が、器用にもハァト型に散りばめられている。
本来ならば太宰に食べてもらえるはずが、私の胃袋に入ってしまう不憫さから、頭上に掲げいただきますと言ってから囓りついた。
甘い猪口冷糖に酸味のある苺が絶妙で、大変美味である。
思わず顔が綻び、太宰に美味しいと伝える。

「ふふ、猪口冷糖ついてる。」

優しく微笑む太宰の手が伸びてきたと思ったら、私の口周りを指で拭い、それをペロリと舐めてしまった。
素でこういう事をする太宰が怖い。

「た、食べる?」

照れ隠しに猪口冷糖を差し出したが、太宰は首を横に振り、また微笑んだ。

「私はなまえの猪口冷糖で満たされたいからいいの。」

だから、そういうのが怖いんだってば……
本人は無自覚なのか、それすら計算なのか。
太宰が言葉通り、鞄から私のあげた猪口冷糖を取り出す。
いただきますと言って猪口冷糖を食べ始めた。
目の前で食べられるというのは、些か気恥ずかしく、体温で溶けかけている手中の猪口冷糖を食べ進めた。
一応…感想だけ、聞いておこうか。

「…美味しい?」

「勿論!美味しいよ。ありがとう、なまえ。」

非道い事は言われないと解っていても、自分が作ったものを美味しいと食べてもらえるのは、矢っ張り嬉しい。
また、来年も頑張ろう。


2019.02.14*ruka



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*confeito*