◆ ダブルアンコールは寝台の上で 壱


「手前ェら……まだ行けるよなッ!」

「イェーイ!!」

コール&レスポンスが最高潮を迎える中、うずうずしながらも大人しく二階席でライブを鑑賞する。
所謂、関係者席で事務所の社長、森さんの隣に座っていた。

「いやぁ、中也くん、今日も絶好調だね!」

人当たりの好い笑顔を私に向け、森さんは言う。
普段は紳士でも、裏の顔があると以前に中也がこっそり教えてくれた。それからは近づき過ぎないように気をつけている。
そうですねと適当な返事を返して、視線をステージ上の中也に戻す。格好良くて、艶っぽい歌声に見合った容姿。
惚れ惚れとして見ては声を失う。
一体私は、何度この人に惚れ直せばいいのだろう。

それなのに二階の関係者席なんて見てくれやしない。中也は一階のファンの子たちの為に歌っているんだろうな。
間奏中にしゃがみ込んだ中也は、煽るように最前列の子達を撫でたり顎クイをしていた。
近い、近い…

最近ツアーで全国を飛び回っていて、漸くヨコハマに帰ってきて、私もまだあんな近くで中也に触れていないのに。
中也がファンの子達を大事にしているのは知っているし、理解もしているけれど、ヤキモチを妬いてしまうのは如何にもならない。
それにしても…何時まで最前列の子達と戯れている心算なんだろう。
長い、長い…

なんだか見ているのが辛くて、視線をギターの芥川くんに向けた。
澄ました顔で早弾きをする姿が、実は好きだったりする。

ライブが終わり、アンコールが叫ばれる中、私は森さんに連れられて楽屋へと移動した。



森さんの後に着いて楽屋に入ると、既に捌けて来ていた樋口さんや銀さん、立原さんが居た。

「お疲れ様です。皆さん、格好良かったです!」

「あ!なまえさん!来てくれたんですね、ありがとう!」

「なまえさん、俺のギター見てくれたんスねっ」

私が挨拶をすると、樋口さんが握手してくれて、立原さんに肩を抱かれる。
相変わらず銀さんは無口だったけれど、会釈をしてくれた。

「なまえ、来ていたのか。」

ステージから戻った芥川くんが、私を見つけて声を掛けてくれる。
途端に、私の肩を離し距離をとる立原さん。以前同じ状況時に、芥川くんに痛めつけられたのが効いているようだ。
芥川くんは何かと私を守ってくれる。
理由はよく解らないけれど、助かっているのは事実。

「芥川くん、お疲れ様。今日も早弾き決まってたね!」

格好良かったと伝えると、ほんの少し頬を赤くして、そっぽを向かれる。

「別に、あれしきの事。」

タオルを渡し、芥川くんと話をしていると、後ろから待ち焦がれていた声が聞こえてきた。

「手前は芥川に会いたくて、此処に来たのかよ?」

振り向くと、ニヤリと笑う中也が居た。
背後のステージから漏れる光が後光の様で、滴る汗が輝いて、なんて神々しい御姿…
中也が手を広げるから、私は迷わず飛び込んだ。

「中也!会いたかった…っ!」

優しく抱き締められて、額に口付けを受ける。

「ちゃんと良い子にしてたか。」

ウンウンと何度も頷き、中也の汗ばんだ胸板に擦り寄る。
汗臭ぇだろ、と中也は言うけれど、臭いどころか良い匂いがするから不思議だ。同じ人間か。
もっと久しぶりの中也を堪能したかったのに、さりげなく離される。
中也の背後では、ファンの子達の大きなアンコールの声が響いていた。

「また後でな、アンコール行ってくる!」

そう言うと、中也は乱暴に汗を拭いて、スタッフから受け取ったドリンクを一気に飲み干した。

「よしっ!アンコール行くぞ、手前ら!」

メンバーに呼び掛け、勢い良くステージへと戻って行った。




2018.12.16*ruka


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*confeito*