◇ ダブルアンコールは寝台の上で 弐
ステージ袖からアンコールを見守る。
嬉しそうなファンの子たちと、楽しそうに歌いながら戯れる中也。
生き生きと歌っている中也を見るのは大好きだ。
…でも、ちょっとファンの子たちと触れ合い過ぎではないだろうか。私が袖に居るって知ってるんだから、ちょっとくらい、こっちも見てよね。
自分勝手な欲求を心の中で呟くと、テレパシーでも使えるようになったのかと思うくらい、丁度のタイミングで中也が此方に顔を向けた。
吃驚して、間抜け面になっていただろう私を指差して、ウインクをするものだからドキドキが止まらない。
中也のことが好きになるばかりだ…
それ以降は、チラリとも此方を見てくれない儘アンコールを終え、無事にライブが終了した。
然し、まだ終わりではない。
この後、毎度、私の超絶嫉妬時間を迎える。
こういう仕事をしているのだから、仕方ないと頭では解っている心算だけれど、中々心では割り切れない。
中也もソレを知っていて、先に車に乗ってろと中也の愛車の鍵をくれた。
なるべく見なくて済むように、と配慮してくれているのだと思う。
森さんや他のメンバー達に挨拶をして、言われた通り先に車に乗り込んだ。
私はいつも助手席ではなく後部座席に座る。
中也は堂々と助手席に座ってりゃいいのにって言うけれど、そこまで図々しくなれなかった。
後部座席の窓から出入り口を見つめ、中也を待つ。
少しすると黄色い声が聞こえてきた。メンバーが出てきたのだ。
所謂、出待ちのファンが花道を作っていた。
先頭は芥川くん。
彼は両手を外套の衣嚢に突っ込んで、スタスタと歩いて行く。
ファンの子が差し出す贈答品や文は、後ろを歩く樋口さんが回収していく。樋口さんもメンバーなのだけれど、その姿は専属のマネージャー宛ら。
本人も好きでやっているようだから、私は何も口出しはしない。
続くのは笑顔で手を振り返したり、握手に応じる立原さんと、それを隠れ蓑にしながら歩く銀さん。
すると、一際大きな声が上がる。
中也だ。
一気に押し寄せるファンの子達。
中也に様々な贈答品や文を手渡す子や、抱き着いたりする子もいる。
中也はファンを大事にしたいからと、警備を配置しないで全て自分で対処する。
中也の意思を尊重したいと思って、嫉妬心をなんとか飲み下してきた。
私も私で見なければいいのに、結局気になって目で追ってしまう。
遅い時は、車までの百米もない距離に一時間かかる事もある。
私だって早く、中也にいっぱい触れたいのに…ファンの子がベタベタと中也の体に触れるのを見る。
自分の心が狭い事に嫌気も差すが、嫌なものは嫌だ。
ファンサァビスと解っているけれど、私以外の女の子にあんな優しい笑顔を向けないでほしい。
頭を撫でたりしないでほしい。
耐えられなくなって、目を伏せた。
見なくて済むようにという中也の配慮を無下にして、傷ついて涙を流すのは自分勝手過ぎる。
中也が車に乗り込んでくるまでの間なら、泣いても許されるだろう。
静かに小さくなって涙を零した。
すると、少しもしないでドアが開かれる音がして顔を上げた。
「なまえ?手前、何で泣いて…」
そこには驚いた顔の中也が運転席から此方を見ていて、何故か涙は止まるどころか、もっと溢れてきてしまう。
「ごめ…何でも、ない」
目を擦り、涙を拭っていると、バタンと勢いよくドアが閉められた。
不思議に思う間もなく、私の直ぐ横のドアが開かれる。開けたのは怒った様な中也だった。
何も言わずに、突然私を軽々と持ち上げて、私が座っていたところに中也が座り、自分の膝の上に私を横にして下ろす。
お姫様抱っこされているみたいで恥ずかしい。
「中也、今日は随分早かったね。」
未だ涙は溢れてくるけど、なるべく笑顔で中也に話し掛ける。ちゃんと笑えているだろうか。
正直自信はなかった。
そんな私の気持ちを察してか、中也は私を痛いくらいに抱き締めた。
「久々になまえに会えたんだ、一秒でも早くこうしたくて振り切ってきたんだが…
悪かったな、またなまえに我慢させちまった。」
さらに腕に力が込められて苦しかった。
それ以上に、中也の想いが私の胸を締め付けた。
「中也、苦しい。」
控え目に伝えると、悪ぃと拘束を緩めてくれた。
中也を見ると、怖い顔をしている。自然と中也の顔に手を伸ばしていた。
すると、そこに温かい手が重なった。
「なまえ、俺が抱き締められないところで泣かないでくれ。」
重ねた手を取り絡めると、中也は私の目元を始めに、口付けの雨を降らした。
少し擽ったくて、僅かな反応を繰り返すと、中也は意地悪な笑みを浮かべ、ぺろりと自分の唇を舐めた。
「可愛い反応してくれるじゃねぇの。」
そう発言した唇は、私の唇に重なったかと思ったら、舐めたり優しく噛んだりしていた。
軽く息が漏れたのを合図に、中也の舌が滑り込んでくる。
今迄の優しい口付けとは打って変わって、息継ぎも儘ならないほど激しく求められる。
流石に息苦しくなり、中也の腕を軽く叩く。漸く解放され、浅い呼吸を繰り返す。
涙で視界がぼやけているが、なんとか中也を捉える。ぼんやりと見えた中也は、曖昧な表情をしているような気がして小首を傾げる。
すると壊れ物でも扱うかの様に、優しく抱き締められる。
「泣くのは俺の前だけな、約束。」
耳元で囁く中也に、返事をして腕を回し擦り寄る。中也の首に小さく音を立てて口付けると、勢いよく離された。
何かと思い中也を見れば、妖艶にニヤリと口元を歪ませていた。
「これで終わりじゃねえぞ。続きは…寝台の上でなまえだけに唄ってやる。」
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2018.12.19*ruka
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*confeito*