◆ 中原メソッド 弐
プロジェクトの内容は総て頭に入っている。なまえの口頭での説明を主に、無事にプレゼンは終了となった。
開始前に罵声を浴びせていた重役達も称賛するほど、説得力に溢れたプレゼンだった。
そして、食事会へと移り、なまえは一時席を外した。
同じフロアにある休憩所へと移動する。自販機で紅茶を買っていると、後ろから声を掛けられた。
「よぉ、お疲れ。」
振り向くと、其処には中原が立っていた。
「中原様!」
真逆の人物に背筋を伸ばすなまえ。中原は手をヒラヒラさせて、いいからと休憩所のソファに腰掛けた。
ふぅと息を吐く中原の前に立ち、なまえは頭を下げた。
「先程のプレゼンでは、此方の不手際で大変失礼致しました。その上、助けて頂いて…本当に、有難う御座いました。」
「頭上げろ。俺は何もしちゃいねえよ。あと堅苦しいから、様はやめろ。」
中原が煙草を取り出すと、なまえはライターを取り出し、慣れた手つきで火を着けた。
中原は一口喫み、煙を吐き出すとニヤリと笑う。
「気が利くじゃねーか。」
「男社会なもので。」
ライターを仕舞いながらなまえは返すが、その場にしゃがみ込む。
「本当にすみません…昇降機ではあんな大口叩いておいて、ほんと恥ずかしい…」
中原の態度と休憩所ということもあり、気が緩んできたのか、口調がだいぶ砕けてきていた。
なまえは顔を両手で覆う。中原は前屈みになると、なまえの頭に手を置いた。
「失敗は次に活かせばいい。いつまでも下向いてんな。辛気臭ぇ。」
なまえはゆっくりと顔を上げると、中原が優しい顔を向けていた。
乱暴な口調とは相反するものだった。
微笑みを返し、返事をしてなまえは立ち上がる。
すると後方から、駆け寄ってくる足音が聞こえた。
「みょうじ君!こんなところにいたのか!お酌ぐらいしたまえ!」
上司の男が怒りながら叫ぶ。然し、なまえが影になって見えていなかった中原を見つけると、態度を一変させる。
「なっ、中原様!ご休憩中でしたか!失礼致しました。うちのみょうじは未熟で、不躾をお許し下さい。」
なまえが何をした訳でもないというのにこの扱いだ。中原は溜息を吐き立ち上がる。
「教育が行き届いてて感心していたところだ。」
そう言って、まだ長い煙草を近くの灰皿に押し付ける。
「みょうじ、一つだけ佳い事を教えてやる。」
上司の男の肩をぽんと叩き、続けた。
「大事なデータは、削除されないように保護しておくのが利口だ。
なぁ、アンタもそう思うだろ。」
中原はニヤリとしてから会場へ戻っていった。
◇
「それでは中原様、どうか前向きなご検討をお願い致します。」
食事会も終わり、重役達が帰り仕度をする中原に話し掛ける。なまえもその後方から頭を下げていた。
中原は手を止め、なまえを呼んだ。なまえは小走りで中原の元へ行く。
「今回のプロジェクト、希望通り満額融資できる用意はある。条件も全て飲んでも構わない。」
中原の言葉に重役たちが歓声を上げた。
なまえの表情も忽ちに明るいものへと変わった。
「但し」
ピシリと空気を制す中原の声が響く。
「此奴をうちに出向させるなら、だ。それができねぇなら、この話は無かったことにする。」
中原がなまえを、親指で指し示しながら言った言葉にざわつく重役達。
そして笑顔の儘固まるなまえ。
声を上げたのは、なまえの上司の男だった。
「然し、大事な人材をこの場で出向させるかというのは、流石に決め兼ねますので一度社に持ち帰」
「嗚呼、そうだ。うちの首領がヨロシク伝えてくれって言ってたなァ。
俺は今回の件に於ける決定権の一切を首領から委任されてる。
俺の言葉は首領の言葉と同義だ。」
中原は上司の男を無視して、重役達に態と大きな声で言った。重役達は全員俯き、控え目な声で"異議なし"と続け様に発言していく。
「手前はどうだ。」
未だ固まった儘だったなまえに問い掛ける。
「わ、私は雇われの身なので…決定事項に従うだけ、です。」
「違ぇよ、如何したい。」
中原はそう言うと手を差し出した。なまえは少し頬を赤らめて、おずおずと中原の手を取る。
「中原さんの下で、働きたいです。」
満足のいく返答に中原はニカッと笑い、なまえの手を確り握った。
「決まりだな、行くぞ。」
なまえの手を引き、会議室を出て行こうとする中原。
「えっ、行くって何処へ…」
「あ?此の儘首領に挨拶に行くんだよ。今回のプロジェクトの報告も、手前からした方が早いだろう。」
森コーポレーションの裏の顔を知らないなまえは、この後驚愕することになる。
それでも新しい上司の下であれば乗り切れる気がしてならなかった。
森コーポレーションへ向かう車中、なまえは中原に疑問をぶつけてみた。
「どうして中原さんは社長ではなく"首領"と呼ぶのですか?まるでマフィアみたい。」
あははと態とらしく笑ってみたが、中原は目をパチクリさせた。
その反応に固まるなまえの脳内では、己が発した一つの単語が色濃く浮かぶ。
「どうしてって、ポートマフィアの首領だからな。」
「え」
前途は多難である。
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2019.01.04*ruka
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*confeito*