◇ 曰く、惚れたが悪いか 壱


ポートマフィア王国になまえ姫という、それはそれは美しいお姫様がおりました。
継父である国王・森は大層可愛がっておりました。
そこで国王は、秘蔵する魔法の鏡に、毎日同じ質問を投げ掛けます。

「鏡よ、鏡、ポートマフィア王国で一番美しい少女は誰だい。」

魔法の鏡は決まっていつも同じ答えを返します。

「それはなまえ姫です。」

「そうだろうね。」

この遣り取りを飽きもせず、毎日毎日繰り返し、国王はなまえ姫と幸せな日々を送っておりました。



平和な月日は過ぎ、なまえ姫が十三歳になった日のことでした。
国王はいつものように、魔法の鏡に問い掛けます。

「鏡よ鏡……ポートマフィア王国で、一番美しい少女は誰だい。」

「それはなまえ姫です。」

魔法の鏡も、まるでそれ以外の答えを持ち合わせていないかのようになまえ姫と答えます。いつもなら満足そうに微笑む国王でしたが、この日ばかりは違いました。
国王の許容年齢は十二歳まで、それをなまえ姫は超えてしまったのです。

「時の流れというものは、残酷だね。」

国王は呟くと、傍らで微笑む少女エリスを撫でました。

「愛しい姫は一人で良いものね、エリスちゃん。」



国王はすぐさま猟師を城へ呼び出し、命令を下しました。

「という訳で、芥川くん。なまえ姫を殺してくるように。」

突然の命令に猟師・芥川は驚きを隠せません。
今までも殺害を依頼されたことはありましたが、溺愛していたなまえ姫を殺せと言うではありませんか。
狼狽える芥川には目もくれず、国王は続けて言いました。

「ああ、そうだ。殺した"フリ"では困るからね、彼女を殺したら心臓を手土産に頼むよ。」

平然と言う国王に対し、芥川は息を飲みました。
然し、国王の命令は絶対。
芥川は了承すると、国王はにこりと微笑みかけました。

「論理的最適解を期待しているよ。」



「ねぇねぇ、芥川さん。私を何処に連れて行ってくれるの。」

芥川は国王の命令により、早速なまえ姫を森へ連れ出しました。
何も疑いもせずに自分の後を着いて歩くなまえ姫を振り返り、頭を一撫でしました。
なまえ姫は嬉しそうに笑います。
年を重ねる毎に美しくなり、慈愛に満ちた優しいなまえ姫を、どうして殺すことができましょう。
芥川は迷いました。
森の奥深くに到着すると、なまえ姫は芥川に寄り添い腕にしがみつきました。
もう一人では、帰り道すら解りません。芥川はその手をそっと外すと、目線を合わせて言いました。

「僕はなまえ姫を此処に置いていく。決して城に戻ってはいけない。
これは、貴女が生きるための選択だ。」

芥川のあまりにも真剣な声色に、なまえ姫は頷くことしかできませんでした。
不安そうに揺れるなまえ姫の瞳に、芥川は何も言ってやることはできませんでしたが、一度だけ強く抱き締め、城へと帰路に着きました。
然し手ぶらで帰る訳にはいきません。
芥川は道中で猪を狩り、その心臓を持ち帰りました。



城へ帰ってきた芥川は、早速報告へ向かいました。

「おかえり芥川君、御苦労だったね。」

「王、仰せ付かった手土産に御座います。」

芥川は、猪の心臓を掲げました。
国王は目を細め、暫くそれを眺めると、微笑して軽く息を吐きました。

「…これは姫のものではないだろう。こう見えて、医学には明るくてね。
人間のものか、獣のものかくらいの区別はつくのだよ。」

国王の言葉に芥川は冷や汗を流します。国王を欺いたとなれば最悪死刑。
芥川は俯き、目を固く瞑りました。
然し国王は、芥川に処罰を言い渡すことなく、別の命令を下しました。

「安心し給え、君を今処罰しても何の利益にもならない。その代わり…彼を呼んでくれるね。」



一方、一人森に置き去りにされたなまえ姫は途方に暮れておりました。
右も左も分からぬ森の中で、これからどうすれば良いのでしょう。
芥川はなまえ姫が"生きるための選択"と言って去りましたが、なまえ姫には意味が解りませんでした。
そして何故、城に帰ってはいけないのか…謎は深まるばかりです。
何一つ不自由のなかったお城で、蝶よ花よと育てられたなまえ姫は、少し歩いたものの、丁度良い切り株を見つけると、そこへ座り込んでしまいました。

「はぁ……お腹空いた。」

「おい、女が居るぞ。」
「なんだと!許せん!」
「本当だ、女だ!やったぜ!」
「どれどれ、別嬪じゃねえか!」
「女だ、どうしよう…」
「女だって、へっくしゅん!」
「へー、女かぁ」

あれよあれよとなまえ姫は、突然現れた七人の小人に囲まれてしまいました。
驚いたなまえ姫はぐるりと一周見渡します。
七人の小人は皆同じ様な顔をしておりましたが、少しずつ特徴があるようでした。
先ず、全員が被っている御洒落な帽子は、其々帯色が違いました。
紅い帯色帽子の小人が言いました。

「おい手前ぇ、その切り株は俺の特等席だ。気安く座ってんじゃねえ。」

鋭い眼光で睨みつけられましたが、小人なのであまり恐怖を感じないなまえ姫でした。

「それは御免なさい、私知らなくて。」

なまえ姫は直様立ち上がり、頭を下げました。
紅い帯色帽子の小人はフンッと鼻を鳴らすと、先までなまえ姫が座っていた切り株に、どっしりと座り足を組みました。

「それで、手前は何だってこんな森深くに居るんだ。」

小人の問い掛けになまえ姫は俯いてしまいました。すると今度は、黄色い帯色帽子の小人が話し掛けます。

「大方、厄介払いってとこだろう。なァ?なまえ姫様。」

お姫様と解ると途端にザワつく他の六人の小人達でしたが、なまえ姫は未だに顔を上げません。

「厄介払い…私、何かいけないことをしてしまったのかしら。
今、あなたの切り株と知らず、座ってしまったように、何か……」

小さな声で言うなまえ姫の声は、今にも泣き出しそうな程に震えておりました。
真逆、王様の許容年齢が過ぎた為とは、その場にいた誰一人として思いつきません。
桃色の帯色帽子の小人が、恥ずかしそうに言いました。

「い、行く場所がないのなら、その…俺たちと一緒に暮らせばいいだろ。」

帽子で表情を隠しておりましたが、端から覗く耳は真っ赤でした。

「そりゃあ、名案だ!美人と暮らせるなんてついてるじゃねーか!」

続いて緑色の帯色帽子の小人が、若干テンション高めに賛成しました。
他の小人達も次々と賛成をしていく中、紅い帯色帽子の小人が不機嫌そうに言いました。

「一緒に暮らすのは構わねえ。だが、タダでって訳にはいかねえだろ。」

尤もな意見に賛成していた小人たちも、確かに、と唸り始めました。
そこで黄色い帯色帽子の小人が言いました。

「なまえ姫には家事全般をやってもらう、それでどうだ。」

小人達は満場一致で意見がまとまりました。
残るはなまえ姫の意思だけです。
小人たちの視線が、一気になまえ姫に集まりました。
なまえ姫は、全員の顔を見渡してからにこりと微笑むと、ドレスの裾を上品に摘み上げ、軽くお辞儀をしました。
そうして七人の小人となまえ姫の共同生活が始まったのでした。



「そういえば、皆のお名前は?」

「「「「「「「中原中也だ」」」」」」」

なまえ姫の問い掛けに七人全員が声を合わせて答えました。
なまえ姫は何度か目をぱちくりさせて、小人たちを見つめましたが、至って真面目な表情から、揶揄われている訳ではないようでした。
なまえ姫は困ったように笑うと、一人一人に呼び名をつけていきました。

赤い帯色帽子の怒りっぽい彼を『中也』
黄色い帯色帽子の物知りな彼を『中也先生』
桃色の帯色帽子の恥ずかしがり屋の彼を『中也ちゃん』
緑色の帯色帽子のテンション高めの彼を『中也さん』
紫色の帯色帽子のあくびばかりして眠そうな彼を『中原さん』
青色の帯色帽子のくしゃみを何度もしている彼を『中也くん』
黄緑色の帯色帽子のぼんやりした彼を『中原くん』
と呼ぶことに決めました。

なまえ姫は混乱しそうだと思いながらも、小人たちはなまえ姫につけてもらった、自分だけの呼び名を気に入ったらしく、とても嬉しそうにしており、なまえ姫も嬉しくなりました。
その夜、小人たちは秘蔵の葡萄酒を振る舞い、なまえ姫を歓迎したのでした。




2019.03.25*ruka


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*confeito*