オフの過ごし方
※一人暮らし捏造
※卒業後
※オフの日

「鬱だ死にたい...」

しばらくぶりに高校時代のような言葉がついてでる。
久々の休みで、俺は優雅な時間を満喫するつもりだった。
それがまさか便秘によって台無しになるなんて誰が想像できようか。

ことの発端は2日前。そういえば最近便通がないな、と考えてみたらもう1週間近く出していないことに気がついて焦った。
それから現在に至るまでお腹は張る一方で、誰にもこんなこと相談出来ずに今もたまの休みにトイレに篭っている。

夢ノ咲を卒業して半年、紆余曲折ありようやく全員揃って再び流星隊として集まろう、と声をかけたのは何を血迷ったのか自分だった。
何故そんなことを言ったのか、自分でもまだ答えは出せていなかった。

なんにせよ真冬のトイレに篭もりきりというのもあまり宜しくない。
今の大切な時期に体調不良で休むなんてことがあってはならないだろう。

(この便秘も自己管理の内なんだろうけど...)

仕方なくなにも出ていない白い便器にため息をついて、なんとなく水を流し外へ出る。

実はこんな便秘になるのは初めてではなかった。
高校に入学した当初も、めまぐるしく変わる環境へのストレスか10日程溜まっていた腹。
あの時はあまりにもお腹が痛くて夜中に病院へ運ばれて...

そこまで思い出して1人で顔を赤くする。
結局処方されたアレを父親に手伝って貰って何とか排泄をしたのだ。

そう、俺はこの便秘をどうにかする最終手段を知っている。
知っているからこそ、冒頭のセリフである。

「うぅ...嫌だ...」

でも、もし今日も出なくてこのままいくと確実に病院送りになる。
そうすれば周囲への迷惑も甚大になる。
どうせ、この部屋には自分しかいないのだ、なにも恥ずかしいことは無い。

自分にそう言い聞かせながら隠すように薬箱の奥にしまい込んでいたそれを取り出した。
万が一に、と父親に渡されていた。

浣腸。

一般的に薬局で売っているタイプのイチジク浣腸を箱から震える手で取り出す。
ピンク色のそれは少しひんやりしていた。

「はぁ...鬱だ...」

ベッドの上に寝転がり横向きになる。
情けないポーズになんどもため息をこぼしながらズボンを下ろし尻だけを露出させる。
お腹はぱんぱんに張っていて、それだけの動作でも鈍い痛みを感じた。

俺はおそるおそるピンクの管を肛門に近づけていく。
いくら細いとはいえ排出する器官にそう簡単に入るものだろうかと疑問に思ったが、それはいとも容易く体内に侵入してきた。

「ひっ...」

少し指で押すとぴゅ、と中身が腸の中に広がっていくのがわかった。
ひんやりとした液体が身体を逆流していくのがハッキリと感じ取れる。
俺は浣腸液を人肌に温めないと腹を壊すなんて知らなかったんだ。
全部入れ終われば、慎重にそれを引き抜いた。

「あっ...」

一瞬中身が零れそうになりあわてて指で抑える。
これから少なくとも10分は我慢する必要があるのだ。
おかしいと感じたのはそれから僅か数分後、ぐるぐると先程までとは違う痛みを感じ始めたのだ。

「いた...なんで...」

腸が動きはじめた、だけでは説明のつかない痛みに眉を寄せる。
冷えたままの液体が刺激を与えすぎて下してしまったのだろう、急激な腹痛が俺を襲ったのだと気づいた。

「ううぅ...痛い...」

お腹を押さえて丸まるが一向に痛みは引いていかない。
それどころかその痛みは次第に便意を伴い酷くなっていく。
時間まではまだ5分以上もある。
絶望的だった。

「無理...トイレ...」

うわ言のように呟いてのろのろと立ち上がる。
これ以上は我慢出来ないと判断して俺は這うようにトイレに向かった。
けれどトイレは目の前にあるのに足が前に進まない。
あまりの痛みに露出した尻を直接押さえて壁にもたれ立ち尽くしていた。
それでも波を乗り越える度に少しづつ前に進む。

高校の時は父親に支えられてトイレに行ったことを思い出した。
はずかしくて嫌がる俺を無理やり立たせて。
あの頃はいつもそうだった。
何でもかんでもめんどくさくて、頑張ったりだとか努力したりだとかが恥しくて。

高校に入って戸惑うだけだった俺を、嫌がっていつも悪態をつく俺を先輩は何度でも無理やり引っ張るもんだから熱苦しくて。
みんなもそんな俺に何も言わなくて。
そんな力に俺は甘え流されていた。

誰もいない部屋だから、漏らしてしまっても誰も咎めないし、恥ずかしいこともないだろう。
諦めかけそうな思考を振り払ってようやくトイレのノブに手をかけた。

ぎゅるぎゅるぎゅる、と大きな波に排便を堰き止めていた硬い便が顔を出した。
俺はそれに気づいて血の気が引く思いでなんとか便器に腰をかけることに成功する。
座って少し前かがみになるとぶわ、と肛門が開き大きな塊が通過していくのがわかった。

はああ、とそれにあわせて大きく息を吐く。
開放感に視界がちかちかした。

額を伝った汗が涙のようにぽたりと太ももに落ちる。
卒業式、進級、先輩のいない日々は淡々と過ぎていった。
結局先輩がいてもいなくても時間はあっという間に過ぎていった。
あれだけめんどくさい、とか恥ずかしいと言っていた俺が、アイドルを続ける、と言った時のみんなの驚きようを思い出して自然と笑みが浮かぶ。

ずる、と一際大きな塊が抜ければぶりぶりと後を追うように柔らかい便があふれていく。
そのたびに肛門と腹の痛みに足先に力が入った。
時計を見ると、いつの間にか10分は遠に過ぎていた。

ようやく渋る腹が落ち着いたのはなんとそれから30分もたってからの事だった。
スッキリした腹をさすってほ、と息をつく。

明日から遂に流星隊としてのお披露目式が待っている。
それが終わればレコーディングに全員でのバラエティー番組と大忙しだ。
きっと先輩は楽しみでまた眠れていないような気がする。
そんか事を考えてふふ、と笑ってしまう。

あの時アイドルをやめられなかった時点で答えが出ていたということに、俺が気づくのはまだまだ先のことである。

「あぁ、鬱だ...」
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