藍「喚起がうまくできないくらいで、いちいち連絡してくるな。」





ICUで患者の状態をチェックしながらベッド脇に座り込む横峯を見つけ藍沢が声をかける。





藍「緊張性気胸を疑ったんだろ?」



横「疑いました…。」



藍「じゃ、自分でどうにかしろ。それにヘリの中で制限があったとはいえ、下手くそすぎだ。」



横「はい…。」



藍「だが、思い切って創を大きく取ったのは正解だ。」



横「はい…。」



藍「短い時間で確実にドレナージするのに最適な大きさだ。」



横「はい。」



藍「それに、4歳の子を優先した搬送プランも良かった。」



横「え?」



藍「よくやった。」



横「えっ?」






横峯は、真ん丸な目をさらに真ん丸にして驚き、そして喜んだ。嬉しさのあまり、バイタルチェックをしていた幸村に藍沢に褒められたことを自慢したが、めんどくさそうにあしらわれていた。





『あかり、よかったね!』



横「はい!」





神崎には頭を撫でられながら褒められたこともあり、横峯はその日はずっと有頂天だったことは、救命にいる職員は全員見て見ぬふりをした。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





スタッフステーションには、白石、緋山がいた。




白「神崎先生は、藍沢先生の指導法に口を出すなって言ったの。」



緋「どうした、急に。」



白「いや、神崎先生にはハッとさせられるなぁ、って思って。」



緋「どういうこと?」



白「彼をすごく信頼してるというか、信じてるっていうのかな?何だかんだで藍沢先生も神崎先生には何も言えないみたいだし。」



緋「うちらより、神崎の方が藍沢と付き合い長いだろうし。そういう面ではお互いの事信頼してるんじゃない?だって、高校の時からだってよ?それよりさ、橘先生と三井先生には下の名前で呼ばれてるの。私はそっちの方が気になる。」



白「高校からなら納得。……え、神崎先生と橘先生が?」



緋「あんた、声でかい!!」





白石が驚きのあまり声の音量を間違えたことで《橘先生と神崎先生が不倫している》という噂が流れるのはまだ先のことである。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇





屋上のベンチで神崎はスマホの画面を切なそうに見つめていた。





藍「どうかしたか?はい。」





そう言って某炭酸飲料水を神崎に渡す藍沢。





『あ、ありがと。覚えてくれてたんだ。』



藍「あぁ。高校から見てきてるからな。何度骨が溶けると言っても飲み続けられたら忘れるわけない。」



『確かに、いつも言われてたっけ(笑)』



藍「なにかあったのか?」



『これ……』





神崎は、スマホ画面の明かりをつけて藍沢に渡した。
そこには、複数の子どもたちに囲まれている国際人道支援医師団のスクラブを着た神崎の姿だった。





『この子達、助けてあげられなかった。紛争地域はほんと残酷で……。小さな子供たちまでも殺していくの…。爆撃で片足を飛ばされても必死に生きようとしてるのに……救ってあげることができなかった。時々、思い出すの……彼女たちの事…』



藍「そうか。」



『救えない命が多すぎると“名医”って何だろうって思うんだ。これから先もずっと疑問を持ち続けると思うんだけどね(笑)』





藍沢は黙って神崎の隣で話を聞いていた。









そして、藍沢は神崎が紛争地域で壮絶な体験を経験してたなんてこの時はまだ、知る由もなかった。