Marguerite

触れる、離れる、塞ぐ


「っ、ふ……んん、」

家に戻ってきて玄関に入って扉を閉めると、待っていたと言わんばかりに秀一さんにキスをされた。驚いて無意識に出た声をかきけすように押し当てられて、舌が触れ合う。少し苦味のあるそれに、私の背中がぞくりと震えた。

「秀一、さん…」
「嫌なら、止めるが…」

耳にキスをしながら、秀一さんが尋ねる。少しだけ恥ずかしくて俯いて首を振れば、引き寄せられて抱え上げられる。軽く触れるだけのキスをして、寝室まで連れて行かれた。ベッドの上に降ろされて、私は秀一さんに腕を伸ばす。

「んっ……ぁ、」

口を塞がれて、隙間から小さく声が漏れる。秀一さんの首に回した腕に力を籠めれば、呼吸をさせるように少しだけ離れて、足りないと言うようにまた塞がれる。
ゆっくりと秀一さんが私の身体に触れて、身体がビクリと揺れる。そのせいか一瞬だけ秀一さんの動きが止まったけれど、またすぐに触れて。

「っ、や…」
「隠すな、」

制服のボタンを外されるのに、私が身動ぐ。恥ずかしさに秀一さんの肩を押してもビクともしなくて、結局前が全て開けられる。
開いた制服の間に残った下着の上から、秀一さんが触れた。

「ふっ……ん、ぁ、」
「呉羽……」

名前を呼ばれて顔を上げれば、キスをされて。私がそれを受け入れるようにぎゅっとしがみつけば、秀一さんの手が下着の金具へと触れる。刹那。

「…………」
「……あの、」

雰囲気をぶち壊すように、電子音が鳴り始めた。秀一さんから聞こえるそれは、恐らく仕事で使っている携帯だろう。秀一さんが大きく息を吐いて、私に触れるだけのキスをした。
少しだけ迷惑そうな顔をした秀一さんがポケットから携帯を取り出して、バサリと着ていた上着で前を隠すようにして渡す。私がその上着を抱くように抱えると、秀一さんは私の頭を撫でて携帯の通話ボタンを押しながら部屋を出た。

(秀一さんの、匂いだ……)

預けられた上着に顔を埋めれば、ふわりと香る秀一さんの匂い。ごろりとその場に転がりながら、私は頬を緩めた。

 + + +

息を吐いて、二つ折りの携帯を折りたたむ。仕事の電話だから仕方ないとはいえ、どうしてこうもタイミングが悪いのか。
さすがに電源を落とすわけにもいかず、とりあえずマナーモードにして寝室に戻る。どうやら呉羽は、預けた俺の上着を持って転がっているらしい。

「呉羽?」

扉を閉めながら、声をかける。呉羽からの反応は無い。その瞬間、どうにも嫌な予感がした。
ベッドに転がる呉羽に近付けば、規則正しく寝息を立てている。軽く頭を撫でてみても、起きる気配は無い。

(……少し、頭でも冷やすか、)

二度目のため息をつきながら、部屋を後にした。

2016.04.02
prev|112|next
back
ALICE+