「というわけなんですけどどうしたらいいと思います?」
「まず僕のところより真っ先に病院へ行くべきだと思うしそもそも兄さんはもうちょっと行動を考えるべきだと思うんだけど…」
「ですよねー」
出されたお茶を、口に運ぶ。確かにまず取るべき行動は真っ先に病院へ行くことだったな、と思いつつももう過ぎたものは遅い。それに、秀一さんを止めなかった私にも非はある。私も、生理が始まる直前だったから大丈夫だろうなんて思っていたのだから。
「兄さんの気持ちも、分からなくはないけどね」
「複雑な男心ってやつですか」
「そんなところ。ほら、呉羽ちゃん高校生だからクラスメイトに男だっているから…」
「由美さんも似たようなものですもんね」
「まぁ、ね…」
苦笑いをする秀吉さんを見て、私は思わず笑みを浮かべる。由美さんは交通課だから佐藤さんに比べればマシではあるだろうけれどそれでも男が多いのは事実だ。兄弟で苦労することが似てるというのも中々に面白い話だ。
ふいに視界に入ったカレンダーを見て、小さく息を吐く。毎月嫌になるぐらいキッチリと訪れている生理が止まって、1ヶ月半。1人で考えるのも嫌だけれど同級生に言うわけにはいかないし、赤井さんの素性を知っていてこういうことを話しても他言無用でいてくれる人なんていうのは秀吉さんぐらいしか思い付かなかったのだ。
「もし、さ。子どもが出来ていたら…どうする?」
「……全ての連絡手段を断ち切って、行方をくらませます」
秀吉さんの、息を飲む音が聞こえた。
どうしてそこまで、と秀吉さんに尋ねられて、なんとなく笑みを浮かべる。人間というものはどうして深刻な状況の方が冷静になれるのだろうか。
「さすがにメアリーさんにだけは伝えようかとは思うんですが、それ以外の人には言うつもりはありません」
多分、私が姿をくらませたら秀吉さんはその瞬間にそれがどういう意味か気付くのだろうけれど。そこからそれが秀一さんに伝わっても、私は姿をくらませた後だ。
「どうして、そこまでするの」
「……臆病、なんですよ。秀一さんが遊びで手を出すような人じゃないってことは分かっているけれど、拒絶されたくないんです」
私は、秀一さんが傍にいる生活に慣れ過ぎてしまった。もしも彼の手を離さなければいけなくなったとき、きっと私は自分から離したんだと思い込まないと前に進めない。
「兄さんなら、多分何年かかっても呉羽ちゃんのことを探すよ」
「それなら、むしろ姿消したくなりますね」
秀吉さんの言葉に、つい笑ってしまう。秀吉さんに相談して、少しスッキリしたような気がする。そして、思っていたよりもずっと私は秀一さんに依存している、と思いつつ自分に向き合えた気がするので良しとする。
そろそろ時間も時間だし、お暇しようとしたとき、秀吉さんに声を名前を呼ばれて顔を上げた。
「やっぱり、兄さんには言わないの?」
「……余計な心配、かけたくありませんから」
秀吉さんが、困ったように眉間にしわを寄せた。
+ + +
「…何コレ」
「いや、騒がせたお詫びに」
「僕使えないんだけど」
「由美さんにどうですかね」
「それ僕が怒られるからね?」
秀吉さんに相談をした日から一週間。そろそろ本気で検査した方がいいかと思いとりあえず薬局で検査薬を買ってきて使おうとトイレに入ったら検査薬がいらなくなってしまったのだ。タイミングが悪いとは本当にこのことだなと思ったのは言うまではない。
「さすがに高校生の家に妊娠検査薬とかまずいでしょう」
「独身の男の家の方がもっとまずいんじゃない?」
「成人してるか否かっていう問題はクリアしてるのでいけます」
「性別っていう問題はクリアしてないんだけどな…」
はぁ、と呆れたように秀吉さんが息を吐きながら私が手にしていたそれを受け取った。勘のいい秀一さんのことだ。妊娠検査薬なんてもし見つかったら多分バレる。
「僕からあんまり言うようなことじゃないかもしれないけど……呉羽ちゃんは迷惑とか思わずにもっと甘えていいと思うけどね」
「………善処します」
そういうことは苦手なんだけどな。そう思いながら苦笑いを浮かべた。
2015.10.18
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