Marguerite

お菓子と○○

*2015年ハロウィン

「秀一さん、trick or treat!」

10月31日。本来なら子どもがお菓子を求めて近所を訪ねるそのイベントを、仕事から帰ってきた秀一さんにぶつけてみる。一瞬彼が何を言っているんだ、というような顔をしたけれども日付を思い出したのか納得したような顔を見せた。

「お菓子が無いなら、イタズラですよ?」

私の言葉に、少しだけ…。ホントに、少しだけ秀一さんが戸惑ったような表情をした。勿論、秀一さんがお菓子なんて持ってないことを分かっててのことだ。

「さすがに、菓子は無いな…」
「じゃあ、イタズラですね」

ただお前は子どもでもないだろう。呆れたように秀一さんに言われて、笑みを浮かべる。

「子どもじゃないですけど、大人でもないですよ」

なんて言ったって未成年だ。日本では成人していない以上大人でないと思ってもいいだろう。…電車料金とかが大人なことは気にしてはいけない。

「生卵でもぶつけるか?」
「そんなことしませんよ」

私の中で、ハロウィンはあくまで口実だ。
私が何をするのかと待っている秀一さんに目を閉じてもらうように言えば、フッ、と笑って秀一さんが目を閉じる。私は軽く背伸びをして、自ら秀一さんにキスをする。触れるだけですぐに離せば、秀一さんはまさかキスされるとは思っていなかったのだろうか。私がキスをした唇を指でなぞる。

「…随分と、可愛いイタズラだな」
「イタズラ、ですから」

自分からしたことなのに少しだけ恥ずかしくて、秀一さんに背を向けてリビングに戻るべく足を動かす。けれど、ようやく靴を脱いで入ってきた秀一さんに腕を掴まれて引き寄せられる。首を傾げて秀一さんを見上げれば、上を見上げている私の顔を手で固定される。同時に、秀一さんの顔が近付いて。

「っ、」

私が瞼を閉じて息を飲むのと同時に、リップ音。されたのは唇ではなくて、額。ちょっと期待したのに、と思って恐る恐る瞼を開けば今度は唇にされる。
ちゅ、と何度もリップ音をさせながら場所をいろいろと変えてされるキス。瞼だったり、頬だったり、鼻梁だったり。どうしたらいいか分からずにひたすら受け入れていると、秀一さんの顔が首筋へと移動する。

「秀一さん、ここ、玄関…」
「…呉羽、」
「ん、」

低い声で名前を呼ばれて、私の身体がビクリと揺れる。心地良いその声に軽く秀一さんに寄りかかれば、首元で秀一さんがフッ、と笑うのが分かった。

「Trick yet treat」
「え?」
「Trick yet treat」

心の中で、秀一さんの言葉を反復する。orではなくて、yet。その言葉の意味に気付いて、身体が強張る。お菓子はいいからイタズラをさせろ、という意味に近いだろう。そして、秀一さんからのイタズラだなんて絶対そういうことだ。

「イタズラ、だけですか?」

ちらり、と秀一さんを見ながら尋ねる。そもそも秀一さんからされるイタズラは嫌な予感しかしないけれど、イタズラだけだというなら中々に生殺しなのではないだろうか。いや、ただしたいわけではないのだけれど。多分。求められるのは、嬉しい、けど。

「じゃあ…Rape yet treat、の方が良かったか?」
「その言葉、アウトじゃないですか?」
「痛くはしないさ」

するり、と秀一さんが服と身体の間に手を滑りこませて。既にそういうつもりなんじゃないか、と思ったけれども発端は私だ。求められることに少しだけ頬を緩めながらその手を受け入れた。

2015.10.31
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