Marguerite

心臓に悪いドキドキ

 
頭を撫でられる感触に、瞼を上げる。目の前には秀一さんがいて、沖矢さんじゃないことに頬を緩める。

「起きたか、」
「目が覚めて秀一さんがいるって、幸せですねぇ…」
「そうだな」

ちゅ、と音を立てながら秀一さんが私の額に触れる。それを受け入れるように腕を伸ばして、私も彼の頬に触れた。
今日は、有希子さんが来る。だったら彼女が来るまで家の中にいればいい、ということで昨日の夜に秀一さんは変装を解いた。秀一さんが沖矢さんとして生活するようになって、一緒にいる時間がかなり減った。その隙間を埋めるように、原始的な方法でお互いを求め合う。

「まだ、昼前か」
「ですね。起きます?」
「いや…。まだ、有希子さんが来るには時間あるだろう」
「えっ……え、朝ですよ…?」

私のことを引き寄せて、そのまま秀一さんは上に覆いかぶさる。その行動が示すものは一つだ。昨日もそういうことをしてそのまま寝たから、服なんて着ていない。服を脱がそうとする間に止めるなんてことも出来なくて。

「今日を逃したら、また暫くお預けだからな」
「っ、ん……そう言って、昨日も、っぁ!」
「昨日は昨日、だ」

首筋にキスをしながら、膨らみに触れる。結局朝からこうなることに苦笑いしつつも、本気で嫌だと思わない自分がいることを感じながら腕を伸ばす。求められるのは、嫌いじゃない。
与えられる熱に溺れそうなとき、ふいにチャイムが部屋に響く。瞬間、私と秀一さんの動きが止まる。

「お客さん、ですかね…?」
「放っておくか、」
「えっ、いいの…?」
「構わん。どうせ鍵は、」

秀一さんがそう言いながら再度私に触れようとしたとき。かすかに聞こえた扉の開く音と子どもの声。工藤家にわりと容赦なく入ってくる子どもなんて、片手で足りる。
私の上で、秀一さんが息を吐くのが聞こえた。

「えっと…秀一さんは、出られないですよね…?」
「あぁ…。鍵、閉め忘れてたのか」
「みたいですね…。って、え、離してもらわないと行けないんですけど」
「ここにいろ」
「えぇぇー…」

秀一さんは私の隣に転がってそのまま私を抱き寄せる。胸元に顔を埋めるように抱きしめられるのは、少しだけ恥ずかしいけれど甘えられるようで嫌いじゃない。

(いやそういう場合じゃない…!!)

下から聞こえてくる子どもの声は、3人。沖矢さんに用があって来たけれどチャイムを鳴らしても出てこない。いないのか確かめようとして扉を開けようとしてみたら鍵はかかっていない。もしかして中で何かあったのかも、と思って入ってきたのだろうか。
この状況を見られたら非常に問題だ。場所は沖矢さんが使ってる寝室。けれどいるのは正確には沖矢さんだけれど見た目が沖矢さんじゃない男と少年探偵団とも顔見知りの女。しかも服を着ていない。服はベッドの近くに容赦なく散らかっている。どう考えても教育上よくない。

(どうする…え、どうする私…!?)

元の世界にいたときに見たカードを三枚ぐらい広げる懐かしきCMを思い出しながら思考を巡らせる。秀一さんは瞼を閉じて離すつもりはないのかガッシリと私に抱きついている。多分、ぬけ出すのは不可能。というか子どもがここに来るのも時間の問題だ。いっそ携帯でコナン君に連絡するか、と思うも携帯はテーブルの上。届かない。
いないのかなー、でも鍵かかってませんでしたよ、寝てんじゃねーか、なんて声が聞こえてきて心臓が止まりそうだ。そのとき、ウロウロする3人を止めるようにあんまりチョロチョロすんなよオメーら、という声が聞こえてきた。コナン君がいるなら、人がいるだろうに部屋から出てこない状況を察してくれるだろうか。

(……無理かな)

高校生だけど工藤君純情ボーイだった、と苦笑いをする。せめてここに来るのが彼なら後は彼がなんとかしてくれる。少しだけ身体を起こして、秀一さんの頭を撫でる。刹那、寝室の扉がゆっくりと開く。その先にいたのは、せめて彼であって欲しいと願っていた眼鏡をかけた少年。

「っ、」

光景を見た瞬間、コナン君が息を飲むのが分かった。コナン君がいる位置からは、目が会っている私とその胸元に抱きつく後ろ姿の秀一さんが見えるだろう。あと、その手前に乱雑に散らばった衣類。私と秀一さんが服を着ていないことは、分かる筈。
私が唇の前で人差し指を立てる動作をすると彼はハッ、と我に返ってそのままゆっくりと扉を閉める。外から博士のところ戻るぞ、という声が聞こえてきてほっと息を吐いた。

(あぁでも暫くコナン君会いたくない……)

ごろりと転がって、息を吐く。なんかもう本当に心臓が止まるんじゃないかと思ったドキドキだった。寝る前はちゃんと鍵をかけたことを確認してから寝るようにしよう。

「行ったか、」
「心臓止まるかと思いました……」
「まぁ、これで邪魔はなくなったな」

秀一さんが身体を起こして、再度私に覆いかぶさる。結局そういうことはするのか、と思うも私も嫌いじゃない。コナン君に見られたことを忘れさせてもらうかのように、秀一さんに向けて腕を伸ばした。

2016.05.29
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