Marguerite

愛情、欲望、所有

 
「「キスの日?」」

屋上で一緒にご飯を食べていた真純と、声がハモる。そのキスの日とやらの情報を得たのはどうやら鈴木さんらしく、雑誌を片手に私たちに言った。

「そんな日にキスできたらいいよねって話だったんだけどね」
「蘭だって、新一君と出来たら嬉しいでしょ?」
「べ、別に私は…!アイツとはそんなんじゃないし…!!」

顔を赤くして鈴木さんの言葉を否定する毛利さんを見て、思わず真純と笑う。まぁコナン君が工藤君に戻らない限りは恋人云々は置いておいてキスするのは難しいだろう。
鈴木さんは毛利さんじゃダメだと思ったのか、それより呉羽よ呉羽!と言って私を指差した。

「え、私?」
「そうよ!アンタ年上の恋人いるんでしょう?ぶちゅっとしてきなさいよぶちゅっと!」
「えぇええー…」

確かにいるけれども、今秀一さんは沖矢さんに変装している。本人ではあるけれど、沖矢さんにキスをするのは気が引ける、というか。やっぱり私からすれば秀一さんとしたい。どっちも、同一人物なのだけれど。

「恋人に会えないっていうなら沖矢さんでもいいんじゃない?仲いいでしょ」
「沖矢さんとはそういう関係じゃないからしないよ」
「っていうか園子ソレ浮気」

ごめんなさい同一人物です。浮気にはなりません。ごめんごめん、と謝る鈴木さんに笑いながら曖昧に返す。園子こそ京極さんとすればいいじゃない、と言った毛利さんとじゃれ合い始めた二人を見てほっと息を吐きながら、じっと私を見ていた真純の方へと視線を移す。

「秀兄のこと、言ってないのか?」
「まぁ、ね。まだ誰か他の人とっていうのは考えられないし…それに、恋人って言ってたら秀一さんのことだからふらっと戻ってきそうじゃない?」
「……凄いな、呉羽は」
「ううん。ただ、私が諦めきれないだけ。どこかで生きてるって思わないと、やっていけないかなって」

くしゃり、と真純が私の頭を撫でながら引き寄せる。なんだかんだでそういうところも似てるな、と内心クスリと笑う。そんなとき、真純が私の手をとって、手の甲にキスをした。

「…え、どうしたの」
「キスの日、なんだろ?どうせなら呉羽にしとこうかなって」
「女同士はノーカンよノーカン!」

ニッ、と笑う真純に、少しだけ胸がドキリと高鳴る。が、鈴木さんもその様子を見ていたらしく大体いつもアンタらイチャついてるでしょ、と呆れ気味に言ったのを聞いて二人で顔を見合わせて笑った。

 + + +

放課後になって、工藤君に本を借りるという名目で工藤家に来た。いや、本は確かに借りるのだけれどある意味ここに来る口実にしている、というだけだ。

「紅茶まだいるか?」
「あ、じゃあお願いします」

顔は沖矢さんでも、声は秀一さんのまま話す。有希子さんは少し前に来たばっかりだし暫くはこういう形でしか会えないのが残念なところ。秀一さんが淹れてくれた紅茶を受け取りながら、そういえば、と今日昼にあったことを思い出す。

「今日ってキスの日らしいですね?」
「…したいのか、」
「したい、ですけど…秀一さんのときがいいです。あ、でも真純にはされましたよ」
「何?」

秀一さんの声が、ワントーン下がる。あ、これ言わなきゃよかったかも、と言ってしまった後に思ったけれどもう遅い。カウンター越しにいた秀一さんが隣に座って、私の頬に触れる。

「俺がいるのに浮気とは、いいご身分だな」
「女の子なんですけど…。そして秀一さんの妹ですよ?」
「ホー…?」

秀一さんが持っていた自身のカップを置いて、私の腕を掴んで引き寄せる。そして、秀一さんの手によって突然視界が遮られる。肩を押して抵抗しても、逆に腰を引き寄せられて距離が短くなる。

「秀一さん、何を……んんっ!」

唇に、温もり。それが何なのか、なんてすぐに分かった。真っ暗な視界の中で、秀一さんにキスをされる。次に何をされるか分からないソレに、思わず秀一さんの服をぎゅっと握る。

「っ、ん……は、だめ、っぁ、」

秀一さんの舌が、私の口内を犯していく。何も見えないでされるそれに身構えることができなくて、秀一さんの舌が動くたびに私の身体が揺れる。

「っは……目、閉じてろよ」
「ん……ぁ、だめ、」

視界は塞がれたままだけれど、秀一さんの顔が喉元へと移動する。ちくり、と一瞬だけ痛んで、その行動に気付いて秀一さんの肩を掴む。そのまま抵抗をするけれど、私が抵抗すればするほど秀一さんは私の身体を引き寄せて。舌を這わせて、今度は胸元で止まる。

「待っ…て、ダメ…ぁ、痕、」
「見せろ…。呉羽は、俺のものだろう」
「ふっ…ぁ、そう、だけど…」

真純に、なんと言って誤魔化したらいいのだろうか。化粧で隠しても、場所が場所だけに化粧が落ちて見えてしまう可能性だってある。
刹那、秀一さんの顔が胸元から離れて、もう一度、というようにキスをされる。視界を遮られたままの状態だからぎゅっと服を掴んで身構えたけれど、それはアッサリと終わって。

「…あまりすると、我慢できなくなる」
「さっきも、してなかったくせに…」
「俺は、このまま続きをしてもいいんだが?」
「秀一さんでお願いします」

ぷい、とそっぽを向いて、少しだけ冷めた紅茶を飲む。顔は秀一さんじゃないから見れなかったけれど、何だかんだでキスはしてもらった。それだけで許してしまう私は、彼に甘いのだろうか。

2016.05.23
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