薄らとある意識で、目を閉じたまま隣で眠るであろう呉羽を引き寄せようと腕を伸ばす。が、いつもならすぐ隣にいる呉羽の身体に触れることがなく、伸ばした腕は動くうちにベッドの淵にまで到達する。
(…………?)
瞼を開ければ、ベッドには俺しかいなかった。少しだけ頭を上げて辺りを見回すも、呉羽の姿はない。ただ、ベッドの傍には綺麗に俺の脱いだ服が畳まれていた。
「呉羽……?」
名前を呼んでも、この部屋にいない呉羽からの返事は当然のように無い。呉羽の服が無いところをみると、風呂にでも行ったのだろうか。それとも、結局食べないままとなっていた夕飯を摘みに行ったのか。
(どこに行った……?)
身体を起こして、ベッドから抜け出る。寝室を出て、音を立てないようにゆっくりと辺りを探すが考えられそうなとこにはいない。リビング、だろうか。そう思いリビングへと歩けば、そこには呉羽がいた。窓際に立って、空を……月を見ているように見えた。
「……っ、」
彼女の頬に、涙が伝う。なんとなく見てはいけないものを見てしまった気がして、気配を消して隠れるようにしながら彼女を見る。儚く泣きながら月を見上げる彼女は、かぐや姫を連想させた。
「行かないで、」
ぽつりと呉羽が呟いた言葉が、聞こえてきた。誰に向けての、言葉なのか。俺に向けての、言葉なのだろうか。
「お願いだからっ……1人にしないで……」
顔を手で覆い隠して、涙を隠すようにしながら呟いた。彼女の知る未来に、俺が何かあるのか。いつも、こんな風に1人で泣いていたのだろうか。1人残されるかもしれないという未来に、怯えながら。
(やけに素直だったのも、こういうことか……)
身体を繋げるとき。普段なら恥ずかしがって、必死に顔を隠すように手で隠して抱かれる。俺が、その手を取って無理矢理視線を合わさせることもあるが。
それ以外にも、気になるところはあった。いつもより自分から求めてきたり、終わった後も離れようとしなかったこと。泣きそうな顔で何かを言おうとしたのに、口を閉ざしてしまったこと。
(バカだな、俺は……)
彼女は、こんなにもわかりやすくサインを出していたというのに。分かっていた筈だ。彼女が真っ先に優先しようとするのは俺で、俺が生きていられるのなら、と、自らの命でさえ差し出そうとする人間だと。俺はまた、同じことを繰り返すつもりなのか。
(誰が、離れてやるものか)
もう二度と、あんな思いはしたくない。呉羽を、失いたくはない。今度こそ、護ると決めた。遠くからじゃない。近くで、傍に置いて、護ると。
確かにそう決めたのに、その決意が打ち砕かれるのはそれから数日後のことだった。
2016.06.14
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