Marguerite

病院明けの一騒動

 
学校に、転校生がやってきた。水無玲奈によく似た、男の子。とりあえずその件に関しては秀一さんに伝えるけれど、それ以上私が関わっていくことも少ないだろう。何より、一応は男の子だしあまり近付きすぎるのも怖い。秀一さんが。
ただ、ソレ以上に今の私には悩ませることが起きていた。

(私、何かしたっけ……)

一部の男子生徒から、遠巻きに噂をされていることになんとなく気付いた。ほら、お前聞けよ!いや無理無理!お前が行けよ!みたいな会話が今日一日で何度か聞こえてきた。これで察せない方が変という話だ。

「ねぇ呉羽、何かあったの?男子がチラチラ噂してるみたいだけど…」
「私が訊きたい…。何かしたっけ?」

さすがにこの状況に毛利さんも気になったらしい。私に尋ねたけれど、逆に私が訊きたいぐらいだ。鈴木さんに告白じゃないのー?なんて茶化されたけど、むしろ聞けよ云々言っているのだからそれは無いだろう。

「なっ、なぁ篠宮!」
「…何?」

意を決して話しかけてきた男子に、少しばかり冷たい返事をしてしまったのはこの際見逃して欲しい。地味に聞こえてくる距離であれだけ噂をしていたのだ。少しぐらいの八つ当たりは許されると思う。

「お前さ、昨日…杯戸中央病院、いなかったか…?」
「杯戸中央病院?いたけど…」

昨日は杯戸中央病院に事故を起こした水無さんが運ばれたから確かにそこにいた。私の答えを聞いた瞬間、その直前まで彼らと話していたから妙な歓声が上がる。その場にいた毛利さんと鈴木さんを見て首を傾げれば、彼女らも同じように首を傾げた。

「でも呉羽、何しに杯戸中央病院仁いたの?」
「あぁ…お見舞い、みたいな感じ?私が怪我したとかじゃないよ」
「だったらいいけど、また事件とかに巻き込まれたんじゃないでしょうね?」
「え、私ってそんなに事件に巻き込まれるイメージあるの…?」

だってこの前服部君と謎解いてたじゃない。毛利さんにそう言われて、苦笑いをする。私からすれば、別に解いていたつもりはないのだけれども。

「そ、その日……男と、一緒だったか?」
「男?って、小学生の?」
「いや、年上の。サッカー部の奴が、杯戸中央区病院にいるの見たって言ってたからさ……」

なる程、そういうことか。そう思いつつ、いたね、と返事をする。マジで!?と驚いたように聞くこのクラスメイトは、一体何を期待しているというのか。クラスメイトが病院にいたぐらいで、騒ぐ年頃でもないだろうに。そう思っていると、彼はまだ質問があるらしく、チラリと毛利さんたちを見ながら口を開く。

「答えにくかったらいいんだけど……屋上で、その……キス、してたって、」

しん、と教室が一気に静まり返る。1拍の間。そして。

「「ええええぇ!?」」
「うわ煩っ……」
「ちょっと呉羽!?どういうことなのよ!?」

隣にいた毛利さんと鈴木さんが、大きく声を上げた。必然的にクラスメイトの視線は私に集中していて、このまま黙りを決め込むのは無理だろう。人の恋路が楽しい年頃なのか、と私は小さく息を吐く。

「してたけど、ね……」

その言葉に、どこからか悲鳴にも似た声が上がる。というか、キスの一つや二つ高校生ならすることもあるだろうにそんなに珍しいものなのだろうか。

「アンタそんなことまでしてたの!?」
「そんなことって……たかがキスでしょ」
「たかがじゃないと思うけど……。あれ、でも呉羽ってその恋人とどこまでしてるの?」
「どこまでって…………」

まさかすることまでしてますけど、なんて言えるわけもなくて。まぁ、それなりには。そんな言葉で濁して、後は各々の想像力に任せる。私の言葉でクラスメイトの反応は様々で、若いなぁ、と思いつつ頬杖を付いて辺りを見回す。

「それで、実際どこまでしてるのよ…?」
「あ、私も気になる」

こっそりと、周りには聞こえないように聞いてきた二人。さすがに毛利さんは恋人がいないわけだし鈴木さんも多分清らかなお付き合いだ。なんとなく言い難くて、期待するほどしてないよ、と曖昧に笑った。

2016.06.15
prev|130|next
back
ALICE+