Marguerite

繋がらない電話


「呉羽、」
「うん?」

仕事に行こうとした秀一さんに名前を呼ばれて、首を傾げる。何か忘れ物でもあっただろうか、と思うも基本的に秀一さんの私物は少ない。軽く頬に触れられて、指先が耳元に触れる。

「あ、の……?」
「あまり、無茶するなよ、」
「お互い様ですよ」

クスリと笑って、秀一さんに告げる。すると彼は口角を上げて、軽く触れるだけのキスをした。突然のことに一瞬私の身体がビクリと揺れたけれど、それ以上するつもりはないことに安心して私も頬を緩める。

「何かあったら、連絡してくれ」
「分かりました。秀一さんも、ですよ?」
「あぁ」
「ん、いってらっしゃい」

私の頭を撫でて、秀一さんが仕事に向かう。少し早いけれど、散歩がてら私も戸締まりをして買い物に行こうか。そう思って、私は戸締まりの確認を始めた。

 + + +

杯戸病院の屋上にいたとき、ふと今日はどうするか呉羽に連絡をしていなかったな、と思い携帯を取り出す。発信履歴を開いて電話をかけるも、呼び出し音が繰り返す鳴るだけで呉羽が出る気配は無い。

(珍しいな……)

外にいて気付いていないのか、それとも音を消していてそのままなのか。普段なら電話をすればすぐに出るだけに気になったが、そんなこともあるだろう。そう思って、呼び出しを止める。それを待っていたかのように携帯が鳴り始め、呉羽かと思い画面を見ればジョディからで。電話に出れば奴らの仲間がこの病院内にいる可能性がある、とのことだった。

「またあのボウヤか…。ご執心だなジョディ…」

呉羽からは、そのうち連絡が折り返し来るだろう。そう思い、気持ちをジョディに言われたことへと切り替える。ジョディに言われた通り目立つ行動を避ける旨を捜査官に伝えるべく、屋上を後にして水無玲奈の病室に戻る。未だに眠り続ける水無玲奈が、目を覚ます気配は無い。

 + + +

看護婦と巧みに話す少年を見る。確か、このボウヤだっただろうか。呉羽もよく気にかけていた少年は。

「まあ、この冬休みを使ってほとんど家に帰らずに探し回ってるだけだと思うけど…。その兄ちゃん、他に何か言ってなかった?」
「ああ!そういえば驚いてたわよ!あなたの他にも似たような事を聞く人がいたって言ったら…『この病院で水無玲奈によく似た患者を見かけたけど本人か?』ってね!」

あたかもそれが本当のことかのように言葉を並べる姿は、随分と子ども離れしている。その姿は、まるで呉羽のようだ。見た目は高校生だが、実際は俺とそう大差無い年齢の、呉羽に似ている。

(……いや、それはないか)

一瞬、このボウヤも同じ類なのかと考えたが、それは無いだろう。そもそも、もし本当にそうなのだとしたら呉羽が知っている筈。その可能性は低いだろう。
ボウヤが看護師から水無玲奈のことを尋ねてきた男が12月18日に仕入れたというサンダルを履いていた、という情報を聞き出す。その姿を見て、口角が上がった。

2016.06.19
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