案内された場所で真っ先に目に入ったのは、白。白い布が被せられたソレが何を意味しているのか。そして、白い布が被せられたソレの近くに置かれている物。血にまみれた服と携帯。
――いってらっしゃい。
朝、確かにそう笑って俺を見送った呉羽と、同じ服。血にまみれて赤黒くなっているが、見間違えるわけがない。携帯も、確かに呉羽が使っていたソレで。
「確認をしていただいてもよろしいですか…?」
俺のことをここに案内した看護師が聞きにくそうに言った。
ボウヤが容疑者である三人の元へと行った後に鳴った携帯電話。その電話は日本の警察からで、至急杯戸病院に向かって欲しいとのことだった。状況もよく分からないままに病院の受付でその電話の内容を告げたところ、案内します、と言って案内され、今に至る。現実から目をそらすように頭を抱えて、どういう状況なのかを尋ねる。呉羽の身に、何があったのか。
「車との、接触事故です。スピード違反をしていた複数の車が接触事故を起こして、たまたま彼女がいた歩道に車が…」
看護師が、状況の説明をしていく。白い布の下から見える暗めの茶髪と背格好は、確かに呉羽によく似ていて。ただ、自分がその事実を受け入れたくないのか。それとも、まだ決定的である顔の確認をしていないから思うのか。まだ、呉羽がいなくなったとは思えなくて。
(呉羽が不安げにしていたのは、このことか…?)
偶然起きたであろう、交通事故。それを、彼女が知ることが出来たというのだろうか。今となっては、それも分からない。
看護師が言うには、事故現場ではまだ息があった、とのこと。救急車で搬送中に心肺停止状態になり、病院で死亡が確認されたらしい。
「……先に、携帯を見ても?」
「…分かりました」
乾いた血がこびりついた携帯を持ち上げて、握る。何度も見たことがあるソレに、息を呑む。確かに、呉羽が使っていたものと同じだ。画面を起動させてみても、何度も見たことがあるわけではないが待ち受け画面に見覚えはある。
呉羽の携帯を持つ手と反対の手でポケットから自身の携帯を取り出して、発信履歴を開く。一番上にある呉羽の名前を押せば、少しの間を開けて呉羽の携帯が振動を始める。それは、この携帯が確かに呉羽のものだということを示していた。
「っ………」
息を飲んで、自身の携帯の発信を止める。じわりと、嫌な感じが胸に広がる。何故、今俺はここにいるのか。ここに横たわっているのは、呉羽なのか。
――質問の意図が、分かりかねますが。
――赤井さんが拒絶をしない限り、私は離れて行きませんよ。
――今夜は、月が綺麗ですね。
――好きだよ、大好き。
――このまま、溶けてひとつになっちゃえばいいのに。
――誓います。ずっと…秀一さんだけ愛します
初めて会ったときの言葉。明美が組織から抜けようとしていたときの言葉。アメリカに向かう直前の言葉。俺が好きだと伝えたときの言葉。爆弾事件の後に不安げに呟いた言葉。月に誓った言葉。全て鮮明に思い出せるのに、どうしてこの言葉を紡いだ呉羽は目の前で横たわっているのか。
「確認を、お願いします」
看護師が、白い布に手をかける。現実から目をそむけるように、俺は視線を足元へと移した。
2016.06.21
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