「…確かに、その方がいいだろうな」
コナン君から大まかな説明を受けて、秀一さんが納得したように呟いた。悪い話じゃないと思うけど、というコナン君の言葉に、秀一さんをちらりと見あげれば口角を上げていた。
「ただ……呉羽、」
「はい?」
「お前は、家に戻れ」
「嫌です、って言ったら?」
些細な、抵抗だった。コナン君は私がいることに特別気にする様子はないし、むしろ恐らくだけれど有希子さんから変装術を習っているからもしものときにはお願いされるのだろうか、というところだ。けれど、問題は今からすること。水無さんと、コンタクトを取ること。それは秀一さんの中で危険だと判断されたのかもしれない。
「俺は、お前を死なせたくはないんだ」
「……ずるい人」
私のことを引き寄せて、肩に額を乗せるようにしながら呟かれる。私は、秀一さんのこの少しだけ甘えたような声色に弱い。それを知ってか知らずか、彼はこうやって私に頼む。
「死なないで、くださいね」
「あぁ。それと…ちゃんと、起きて待ってろよ」
「分かりました」
夜、何かあったっけ。そう思いながら、コナン君にまたね、と伝えて屋上を後にする。この後は楠田さんが水無さんの部屋を探そうとして失敗、自決後に秀一さんとコナン君が水無さんに接触するんだったか。
(早い、なぁ……)
病院の外に出て、タクシー乗り場に停まっていたタクシーに乗り込む。行き先を告げると、場所は分かるらしく車が走り始める。私はただ、何をするわけでもなく流れる窓の外の景色を見つめていた。
+ + +
瞼を開けると、いたのはベッドで。ベッドに腰掛けて電話をしている秀一さんが視界に入る。確か、私は家に戻ってきてお風呂に入って。秀一さんが帰ってくるまでまだあるだろうから、と片付けだったり掃除だったりを終わらせて。
(休憩して、そのまま寝ちゃったのかな……)
あまり、記憶には無いのだけれど。ベッドに置かれている秀一さんの手に触れれば、秀一さんが電話をしながら私を見て口角を上げる。どちらからともなく指を絡ませて、手を繋ぐ。少しだけひんやりとした手が、気持ちいい。
「……起きて、待っていろと言っただろう」
「すみません…。起こして、良かったのに」
電話を終えた秀一さんが、少しだけ呆れたように言う。手を繋いだまま秀一さんは私に覆い被さって、額にキスをした。
「呉羽、」
悲しげにに、私の名前を呼ぶ。すまない、と小さく呟かれて、私は首を横に振る。秀一さんの、せいじゃない。
「明日…ですか?」
「恐らくな。ジンなら、すぐにでも動くだろう」
「そっか、」
繋いでいた手を離して、秀一さんの頬に触れる。心から、愛しいと思う人。
「呉羽には、ツラい思いばっかりさせるな…」
「でも、私は今回の作戦を知ってるから。変装をするときに、会える」
「それでも、毎回じゃないだろう」
「ん……たまには、電話とかしたいです」
「あぁ。好きなときに、かけてこい」
恐らく、時間は取りやすい。そう言って、秀一さんの頬に触れていた手を取られてベッドの上で指を絡ませ合う。視界に入るのは、天井と秀一さんだけで。
「呉羽、」
「朝まで…いっぱい、愛してください」
「待ったは、無しだぞ」
秀一さんの手が、私の身体をなぞる。その手を受け入れるように、私は自らキスをした。
2016.06.27
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