Marguerite

Goodbye,darling

 
半ば気絶するようにして眠った呉羽の頭を撫でる。普段はあまり多く抱くことはないのだが、今回はかなり抱いたような気がする。

(痕、付け過ぎたかもな……)

彼女の胸元に広がる、赤い痕。無数に散らばるソレは前だけじゃなく後もだ。所々、噛みついた痕まである。今回ばかりは、許してもらいたいところだ。組織に戻った水無玲奈から連絡があれば、もう簡単には会えなくなる。会えても、恋人として触れることは叶わない。

「……呉羽、」

名前を呼んでも、返事は無い。アレだけ激しくしたのだから、仕方ないだろうか。呉羽も、いつも以上に素直に抱かれてはいたが。
彼女の身体を引き寄せて腕の中に閉じ込める。呉羽を、共に変装させようと思わなかったと言えば、嘘になる。だが、それはあまりにもリスクが高い。

「すまない、」

確かに変装をしてしまえば、姿は違えど恋人として共にいられる。だが、俺が死んですぐにその恋人まで姿を消せば組織の人間ならば気付く可能性がある。姿を変えて、生きているかもしれないと。
呉羽に小さく謝罪を述べて、額にキスをする。呉羽に、嫌な思いをさせる自覚はある。呉羽もそれを望んでいるとはいえ、罪悪感がないわけじゃない。

「…愛してる、」

言葉なんかじゃ、言い表せない程。いくら求めても、足りない程。愛しい、とは、こういうことを言うのかと知った。

――大君、

泣きそうな顔で笑う彼女が、頭を過る。呉羽を想うときに時折明美の姿がちらつくのは、彼女への罪悪感だろうか。彼女を護ることができなかったのに、呉羽を傍に置こうとする、自分への。

「…すまない、」

それでも俺は、呉羽を手放したくはないんだ。

 + + +

日が昇った空を見る。雲が広がり薄暗い空。そろそろ出るが、呉羽はまだ眠ったままだ。

(結局、起きなかったか……)

くしゃりと、呉羽の頭を撫でる。次に会うときは、俺が死んだ後になるだろう。生きているうちに1度会えれば、いい方か。

「呉羽、」

ベッドに腰掛けて、呉羽の名前を呼ぶ。こうして無防備な姿の呉羽を見るのも、暫くはお預けだろう。眠る呉羽に触れるだけのキスをして、離れる。

「愛してる、」

瞼の奥に呉羽の姿を焼き付けて、離れる。ベッドサイドのテーブルに、ひとつの小さな袋を置いて。

「雪が、止まないな」

死にに行くのに、何も持っていくことは出来ない。小さく呟いて、部屋を出た。

2016.07.07
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