扉が閉まる音が合図かのように、涙が伝い落ちる。姿を見ると絶対に決心が鈍ると思っていたから寝たフリをしていたけれど、あれはずるい。
「バカ、でしょっ…」
雪が、止まないなんて。どんな告白なのだろうか。私が意味を知ってるとも限らないのに。知らなかったら、何を言っているかさえもわからないというのに。
「月は綺麗だけど…遠いよ」
次に秀一さんに会えるのは、きっと彼が来葉峠で死を迎えた後。素顔で、会えるだろうか。もしかしたらもう次に会うときは沖矢さんかもしれない。
「荷物、まとめないと……」
ここで、グズグズと泣いている場合じゃない。私にはまだ、やらなきゃいけないことがある。
ベッドから出て、顔を洗うべく洗面所へ向かう。ばちん、と両手で頬を叩いて、気合を入れた。
+ + +
「呉羽ちゃん、久しぶりね!」
「ご無沙汰してます」
「やだー!そんなにかしこまらなくていいわよぉ!」
久しぶりに日本に来たからなのか。それとも私に会ったからなのか。急遽帰国してもらった有希子さんは、テンションが高い。ぎゅうぎゅうと抱きついて挨拶をするソレは、アメリカ式なのか、それとも彼女だからなのか。
「一応新ちゃんから事情は聞いてるけど、その彼が来るのは今日かしら?」
「恐らくは…。まだ、絶対とは言えませんけど」
「大丈夫よ。呉羽ちゃん、その人のこと信じてるんでしょう?」
「……有難う、ございます。ちょっと、気持ち楽になりました」
事情を知っている有希子さんが、彼に会えるのが楽しみね、とまるで娘の恋人にでも会うかのように笑う。私からは恋人だということは言っていないのだけれど、工藤君からだろうか。それとも女の勘なのか。
「それにしても変装ねぇ…。どういう風にしたいとかある?」
「顔と声が合っていれば特には…。私と彼が会うことも減るとは思うので」
「あらそう…。じゃあ、大学院生っぽく、かつ首元が隠れる服を着ていても似合う感じかしら」
どんな風にしようかしらね、と変装するための道具を出しながら楽しげに笑う有希子さんを見て、思わず口角を上げる。ポジティブに物事を捉える有希子さんの姿勢は、ぜひとも見習いたいものだ。
「あ、そうそう!コレ、例の頼まれてたものよ。手続きは全部向こうですませてあるわ」
「有難うございます、何からなにまで…」
「いいのよ!私からしたら、呉羽ちゃんも娘みたいなものだから!」
鞄の中から取り出されたひとつの封筒を、有希子さんから受け取る。今回の件が落ち着いたら使う予定のモノ。随分と急なお願いだったのにアッサリと物事が進んで、自分は随分恵まれているのだと実感した。
「優ちゃんから聞いたけど…どうして、こんなことしようと思ったの?」
「……護りたいから、ですかね。護られるんじゃなくて、隣に立って、護っていきたいんです」
秀一さんは、強い。頭の回転も早くて、截拳道も強くって、狙撃だって。そんな彼の隣に私がいてもいいのかと思うのと同時に、護られるよりも護りたい。この人を、死なせたくない。そう、思う自分がいる。
「にしても、こーんなに呉羽ちゃんに愛される彼はどんな人なのかしらね!」
「ふふっ、多分有希子さんも気に入ってくださると思いますよ」
「あら、そうなの?」
「えぇ。とってもカッコいいですから」
有希子さんにも、あげられませんけど。そう彼女に言えば、楽しそうに私を見る。私は優ちゃん一筋だから取りはしないわよ、と語尾にハートが付きそうな勢いで言われて、苦笑いを浮かべる。成程、気に入りはするけど取りはしないということだろうか。
「あぁそうだ!今なら優ちゃん電話大丈夫よ!アレなら優ちゃんからかけてもらう?」
「え、あ、私から電話します!ちょっと電話してきますね」
「えぇ」
そうか、ちょうど今ぐらいなら時差的にも問題なく優作さんは電話に出られるのか。そんなことを思いながら、電話帳の中から優作さんの番号を探した。
2016.07.10
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