Marguerite

日常の一コマ

*赤井務武が生きてる

「君の身体はいつ戻る?」
「さぁな」
「まだ分からないのか。じゃあデートでもしよう」
「職質案件だな」
「ム、親子というのはどうだろう」
「中学生が親と手を繋ぐか?それも異性」
「それもそうか……」

ソファーに座って本を読みながら片手間に返事をするメアリーさんと辛辣に扱われてもめげることなく声をかけ続ける務武さんを私と秀一さんで眺める。少し前にメアリーさんから務武さんが生きていた、と連絡を貰って里帰りがてらこうして一家全員集まったのだけれど務武さんは落ち着いてからはずっとメアリーさんに声をかけている。

「秀一さんでもメアリーさん連れてたら職質されそうですよね」
「顔は似てるから姪っ子辺りで通せそうだが……」
「問題はメアリーさんが見るからに外国人顔ってことですね」

隔世遺伝しちゃったみたいなんですよね、で貫き通すしかあるまい。ハーフ顔というには少しばかり厳しいだろう。私が女子高生だった頃に秀一さんと歩いていて職質を受けなかったから日本ならまぁギリギリセーフかもしれない。私が警察関係者と知り合いだったから、という可能性もあるけれど。

「見た目的に犯罪だよねぇ、務武さんとメアリーさん」
「50代と中学生か……」
「あー……それ聞くともう駄目だ。そうだよ務武さん50代なんだよね……」
「見た目はわりと若いからな」

いい年の重ね方、というのだろうか。さすがにアレで手を出されたらたまらんな、と独り言のように秀一さんが呟いたのが聞こえてじっと秀一さんの顔を見る。その視線に気づいたのか、秀一さんはこちらを見て眉根を寄せた。

「どうした?」
「……私の身体が縮んだとき、秀一さん私にんぐっ、」

ハッ、と思い出したように秀一さんが自身の手で私の口を覆う。が、時すでに遅し。しん、となった部屋と突き刺さるような視線。それは、メアリーさんからと務武さんからのものだ。

「秀一、彼女に何をしたのか詳しく聞かせてくれ」
「呉羽に何をしたか、言ってみろ」

上から務武さん、メアリーさんの順番で秀一さんに告げる。一見笑顔に見えるけれど目は笑ってない気がする。務武さんは好奇心で聞いているような気もするけれど。

「というか、呉羽の身体が縮んだのか?」
「一時的にだ。寝たら戻ったから詳しく調べてもない」
「本当だな?」

半ば尋問のように問い詰めるメアリーさんが確認するように秀一さんに口を塞がれたままの私を見て、コクコクと頷く。数日戻らなかったらどうするべきかちゃんと考えよう、とは思ったけどまさか抱かれるとは思っていなかった。ホント今思えばよく入ったな、なんて思う。何がとは言わないけど。

「呉羽が縮んだとなると、小学生ぐらいか?」
「一年生ぐらいだったな」
「で、何をしたんだ?」
「……さぁ」

後ろに般若でも抱えてそうなぐらい威圧感のあるメアリーさんから視線を逸らしつつ、しかし決して言うつもりはないというように秀一さんが返事をする。確かに前にまだ高校生の私に秀一さんが中出しした、と秀吉さんがうっかり口を滑らせたときは凄かった。怒られたのは秀一さんだけだったけど。
ふいに私のスマホのディスプレイが光って、音は切ったままだけれど通知が入ったらしい。秀一さんに口を塞がれたままそれを確認してみれば務武さんかららしく、恐らくはメアリーさんの携帯から私の連絡先を拾ったか何かなのだろう。深くは触れないでおく。秀一さんに何をされたのか尋ねる文面が表示されているけれど、ここは秀一さんの為にも言わない方がいいだろうか、と思い私の口からは言えません、とだけ返信する。すると、それを見た務武さんは眉根を寄せて、しかしすぐにまたアプリからの通知が来た。

『秀一の生まれてからの成長記録ビデオと引き換えでどうだろう?』
『7歳ぐらいの私に容赦なく手出しましたよキスなんて可愛いものです』

秒で返信した私は悪くないと思う。秀一さんに見たいって言ってもあんまり見せてはくれないし正直中々見る機会はないから見たい。小さいころの秀一さん見たい。私は欲望に勝てなかった。

「メアリー、」
「何だ?」

務武さんがメアリーさんを呼んで、自身の携帯の画面を見せる。恐らくは私とのやり取りだろう。それを見た瞬間、メアリーさんの目がスッ、と冷めた気がする。
秀一さんは難を逃れた、と思ったのだろうか。私の口を塞ぐ手が緩んで、その間に私はするりと抜け出す。飛び火してくるのは避けたい。秀一さんのこと売ったけど。

「秀一……小さくなった呉羽に手を出したらしいな?」
「っ、呉羽、!」
「幼少期の秀一さんのビデオって言われたら…仕方ないと思うの……」
「可愛そうに…。小さくなって不安にもなる中私の愚息がとんでもないことをしてしまったね。こっちでゆっくりしよう」

立ち上がったメアリーさんが、指の骨を鳴らしながら秀一さんに近付く。秀一さんは顔をひきつらせてこっちを見ているけれど巻き込まれたくはないので大人しく務武さんについていく。多分、一時間後にはお互い傷だらけになっているだろう。ビデオが落ち着いたら湿布やらなんやらがいるな、と思いながら今から見れる幼少期の秀一さんを想像して口角を上げた。


余談ではあるけれどその晩散々お仕置きと言わんばかりにいいようにされた私は翌日ベッドから出ることすらできなかった。

2018.2.27
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