ふぁ、と欠伸をしながら制服を脱ぐ。大きい欠伸、と真純が隣で笑いながら言って苦笑いを浮かべながら制服を畳む。
「戻ってきたのって昨日の昼だっけ?」
「んー。ちょっと時差ボケ」
「半日違うとなぁ。GW中はずっとアメリカだったわけだし」
隣で真純も制服を脱いで、体操服へと着替える。体育が嫌い云々は無いけれど少し時差ボケをしてからのこれはちょっとキツいものがあるけれど時間割というものは決まっているから仕方がない。目の前の棚に畳んだ制服を置いてそこから体操服を手に取った瞬間、真純が隣で私の身体を二度見する。
「それ、秀兄だよな……?」
「……あー、そうだね。体操服着れば見えないけど」
頬を引き攣らせて指差すのは、私の胸元。肌着は着ているけれども見えてしまう谷間には、私がアメリカにいる間にがっつりと秀一さんが所有印を残していた。少しだけキャミソールを引っ張って上から見てみても我ながらこれは凄いな、と思わなくもないけれど生憎付けた本人は遠い1万キロ先の地だ。どうしようもない。
「うわぁ……。確かに独占欲強そうとは思ってたけどこれは凄いな……」
「噛み痕まであるからねぇ」
キャミソールを戻して、バサリと体操服を着る。確かに見えないところなら付けていいと許可はしたけれどまさかここまでされると誰が予想しただろうか。そして彼の妹である真純はしらない。スカートを履いたままズボンを履いてそのスカートを脱いだから見えなかっただけで内腿にもがっつりと痕が残されていることを。多分、背中にも。
「秀兄も心配なんだろうな、呉羽のことが」
「今さら秀一さん以外に目がいかなくて」
「知ってる」
二人の姿見たらお互いに好きでたまらないって顔してる。恥ずかしげもなくそんなことを言う真純に私の方が恥ずかしくなって顔を隠して棚に項垂れる。
「待って、そんなに分かりやすい……?」
「秀兄に関しては身内だからっていうのもありそうだけど、でも分かりやすいと思うよ。表情勤が動いてる」
「いや待って秀一さんそんなに仏頂面ではないよ……?」
「でも表情豊かではないよな」
「わかる」
はぁ、と息を吐いて頭を上げる。秀一さんだって人の子だし思いっきり笑ったりすることはあるけれど多くは無い。髪を高い位置でひとつにまとめながら、更衣室外に向かう真純の後に続いた。
+ + +
「お前ちょっとこっち来い」
「うぇ、ちょっ……?」
授業が始まるまでもう少しあるなぁ、なんて思いながら真純と話していると、ガシリ、と工藤君が腕を前に回した状態で肩を掴まれ、そのまま引きずられるように壁際まで連れて行かれる。突然のことに真純も驚いて私の手を掴もうとしたけれど別の男子に声をかけられて追いかけることは叶わなかった。
「ちょっと何、突然」
「お前、今日一日髪おろしといた方がいいぞ」
「やだよ、体育暑いもん」
「あのなぁ……、赤井さんだろ。項のとこ、がっつり噛み痕と鬱血痕付いてる」
「……マ?」
「マジ」
首の後ろを自分の手で撫でてみるも、イマイチよく分からない。項なんて自分見ることなんてまず無いし鏡で見ても余程気にして見ない限りは見えないだけに狙って付けたのだろう。そういえば情事の最中、ここに秀一さんの顔があったような気がしなくもない。
「ハーフアップにしておくか……」
「のがいいだろうな。さっきから男子がざわついてる」
「うっわ……。昼休みに電話しようかな……」
「日付変わる前ぐらいだし起きてるだろ。仕事じゃなければ」
「それな……」
結い上げていた髪をおろして、頭を抱えながら息を吐く。確かに髪をおろしてさえいれば見えることはないけれどそういう意味じゃない。それとも体育があるということを知っていたのだろうか。知らなくても体育等身体が動かすことがあれば髪を結い上げることは分かっているだろうし問い詰めても恐らくはあまり悪びれることもなく謝罪をするのだろう。次に会った後は気を付けよう、と髪を結いなおした。
+ + +
「あらやだシュウ、セクシーなの付けてるじゃない」
「……首か、」
廊下で会ったジョディに言われ、首筋を撫でる。情事の最中に呉羽が付けたそれは、露骨に見える位置だ。最中こそあまり気にしてはいなかったが鏡を見て目立つな、と思ったことを覚えている。
「可愛い子猫に噛みつかれたんだ」
「あら、その可愛い子猫を遠い日本に置き去りにしてるじゃない?」
「放し飼い、と言ってほしいな。大丈夫だ、首輪は厳重にしてある」
学校で髪を結ぶことがあれば、それはしっかりと見せつけることになるだろう。項に付けた噛み痕と、キスマークを。キスマークはともかく噛み痕は数日そこらじゃ消えるものじゃない。呉羽に好意を寄せる男がいるかは知らないが、同学年の男どもへのいい牽制になるだろう。
「首輪、ね。あんまりガッチガチにしていて反抗されても知らないわよ」
「まさか。躾はしてあるさ」
胸元、背中、内腿、いろんなところに痕は付けた。次会うときには消えているが、それはまた付ければいいだけの話だ。三ヶ月後が遠いな、と息を吐きながら呉羽が項への痕に気付けば恐らくは電話なりなんなりしてくるのだろう、とひとり笑みを浮かべた。
夢ノ箱庭3 無配
2018.8.19
2018.8.19
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