Marguerite

*モブ視点

夜も遅くなり、店内にいる人間は自分とバックヤードにて休憩を取っている後輩だけだった。後輩は休憩中だから実質店内には自分ひとりだ。フライヤーに使う紙製の箱を作っていると、店の扉が開いて来客を知らせる音が鳴る。ほぼ反射的に挨拶をして視線をそちらに向ければ、そこにはよくこの店に来る男の人がいた。女の子と一緒に。

(あのコ、高校生じゃなかったっけ)

黙々と箱を作りながら、ちらりとその二人を盗み見る。ベタベタとくっ付いたりはしないものの、距離の近さや話し方を見れば仲の良さは分かる。自分の記憶が確かなら、女の子の方は高校生だった気がする。また、男の人も一人で来店するときよりか表情が柔らかいもののどう見ても二十代後半から三十代前半に見える。

(最近じゃ年の差カップルも珍しくないけど、)

さすがに高校生に手を出すなよ、と心の中で男に悪態をつく。いやまぁ手は出してないのかもしれないしカップルじゃないかもしれないけれど。単に親戚か恩師か。そういう関係だって考えられるわけだ。早とちりはよくない。そう思った瞬間。

(あ〜〜〜〜〜〜〜)

店員が作業をしているからと思って見てないと思うなよ、と声を大にして言いたい。なんならバックヤードだと監視カメラの映像が画面に出てるから後輩が見ようと思えばその映像は見れる以上裏で見られてる可能性はあるぞ、とも。口にしなかっただけまだマシだけれどもあの男滅茶苦茶女の子好きですね。店員が見てないと思ったのか額にキスしやがりましたリア充か。女の子の方はさすがに外でされたのが気に食わなかったのか若干ご機嫌斜めになりするりと男の人の傍から離れ向かったのはデザートコーナーだ。

(やっぱアレ高校生のコだよな)

ふむ、と女の子を見ながら思う。朝方にシフトが入っているときに時折彼女を見る。帝丹高校の制服を着た、彼女を。まぁ仮にあの男の人が未成年に手を出して捕まろうとも私には無関係ではあるのだが。
男の人の方を見れば、見ている棚は医薬品関係の棚。絆創膏とかガーゼとかそういう棚。しかし視線はそれらがある位置よりも若干下である。その瞬間察した。この男マジで高校生に手を出してるな、と。

(隣にいたら選びづらいよねぇ分かる分かる〜)

男の人でそれを買う人はちょいちょい見かけるしレジを打つことだってあるが男の人ひとりで買うことが多い。たまーに女の人が買っていくこともあるけど。
男の人は暫しいくつか見比べた後にひとつの箱を取って彼女の元へと向かう。右手の親指をポケットに入れて外に出ている指で箱を持っているけれど自然過ぎてぶっちゃけ避妊具持ってるとは思えない姿だ。避妊具を持った男の人はどこかぎこちないのだけれど、そんなこと微塵も感じさせないのは凄い。スパダリかよ。

「何か買うのあったか?」
「とろりんパフェとアイスで悩んでます」
「……両方買ってやるから持ってこい、」
「やったー!」

男の人がとろりんパフェを取って、女の子は嬉しそうにアイスコーナーへと向かう。食べたいアイスがあったらしくパッと中を見てすぐにアイスを片手に戻って、軽い足取りでこちらに向かってくる。黙々と作っていた箱を背後に移動させてバーコードリーダー片手に声をかけてレジを開ければパフェとアイスが置かれてそのふたつのバーコードを読み取った。

「スプーンはお付けしますか?」
「あ、お願いしまーす」
「あと、タバコいいか」
「おひとつでよろしいですか?」
「あぁ」

手早くアイスとパフェを袋に入れて、いつも買っていくタバコを取りにレジから離れる。果たしてお兄さんが手に持っている避妊具はいつ出してくるのか。多分まだ彼女は彼が避妊具を持っていることには気付いていない。

「一本吸ってから車に戻るから先に行ってろ」
「はーい」

なるほど上手い。二人に背を向けたまま苦笑いをしながらそんなことを思う。煙草を手にレジに戻れば女の子がアイスとパフェが入ったビニール袋を片手に持って男の人から車の鍵を受け取っていた。煙草のバーコードをスキャンしているうちに女の子は車へと戻るのに背を向けて、そのタイミングで右手に持っていたその箱をレジに置いた。

(タイミング上手すぎかよ……)

袋に入れるか一応尋ねてみればそのままでいいということなので煙草を上になるように箱を重ねて机上にて差し出す。煙草を吸うと言ってしまえば先に相手を車に戻らせられるし煙草を買うなら箱二つ同時にポケットに入れてしまえば分からない。ここまで考えていたというのだろうか。

「有難うございましたー」

会計を終えた男の人を見送って、外で煙草を吸う姿を視界に捉えながら遠い目をする。家に帰ったら、女の子は食べられるのだろうか。

「……薄い本のネタになるわ」

家にゴムが無いし買っている気配も無いから帰ったら自分が美味しくいただかれるとは思っていない受けとそんな姿を見ながら細く微笑む攻めとかどうだろう。ゴムが無いから、って断るのにゴムならさっき買った、だなんてさらっと言ってくる攻め。買ったアイスはさしずめ運動後のおやつだろうか。

(いいネタ貰ったわぁ……)

ふ、と外で煙を吐き出す男が煙草を吸い終えたらしく車に戻る。左ハンドルかぁ、なんてぼんやりと思いながら、私はまた仕事に戻った。

 + + +

「新刊最高だった…何アレやっばい…」
「それはどうも」

私に向かって拝む友人に適当に返事をして息を吐く。同人誌の即売会を終えて戦利品を読んだのであろう友達から呼び出されたと思ったらコレである。

「コンビニのシーンとか20回ぐらい読み返したよね…何アレちゃんとゴム持ってるのやばい…気付かないわあんなの…」
「ハハッ」

少し前に仕事中に起きた出来事を本にしたわけだが、これが思うのほか好評で実際もらう感想の半分以上は例のコンビニのシーンであった。いやそのあとのおせっせシーンも書かれてはいたけれど。ほぼ受け視点で描いたそれは、コンビニでお菓子を買う甘い雰囲気の話から一転して家に戻って玄関から始まるおせっせシーンにて攻めがゴムを買っていたことを告げられた。受け視点故に攻めがゴムを買っているシーンは分かりにくくなっているもののコンビニの中にいるシーンでは攻めはしっかり箱を持っていて、読み返して伏線に気付けるような話になっているのだ。

「先生の次の新刊はいつですか……」
「そのうち運命的なネタとの出会いをしたら?」
「運命的なネタとの出会いってなによ!?」
「あははー」

悲しいかな、アレ以降あのカップルは見ていない。最近ではあの男の人も見かけなくなって実に悲しいものである。なお、女の子は忘れた頃に見かけている。

「……あれ」

人混みの中、見えた背の高い男の人。見間違えるわけがない、あの男の人だ。いつものようにニット帽じゃないけれど、帽子を目深に被って少しクセのある髪。一瞬見えた火傷らしき痕は、彼が暫く姿を見せなかった理由なのだろうか。

「どしたの?」
「……なんでもない、」

恐らくあの男の人は私の顔なんて覚えていないだろうし、いきなり話しかけられて不審者がられるのも嫌な話だ。せめて別れたりしてなければいなぁ、なんてことを思いながら、私は彼がいた方角から視線を外した。

2019.1.29
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