「あ、日付変わった」
秀一さんに膝枕をされつつ映画を見ていたのだけれど、ふと時計を見れば日付が変わっていることに気付いて顔を上げる。手癖のように私の頭を撫でていた秀一さんは突然起き上がった私を見ながら視線を時計へと向けた。
「明日も学校だな、」
「そこには触れないでほしいですねー。ふふ、チョコ食べます?」
「チョコ?」
ソファーから降りて、パタパタと冷蔵庫に向かう私に秀一さんが不思議そうに訪ねた。ウイスキーを開けているわけでもないのに珍しいな、と言いたげな秀一さんの視線を感じつつ、キッチンに向かいその先にある冷蔵庫の中からお目当ての箱を取り出す。洋書箱に入ったチョコレートは、バレンタイン向けの商品である。
「普段は手作りのことが多いですけど、面白いチョコレートを見つけたので今年のバレンタインは既成品です」
「あぁ、14日か」
「はい。私から秀一さんにバレンタインです」
キッチンから秀一さんが座るソファーに戻りながら、洋書箱を見せる。日付が変わったからもう14日で、明日は学校だけれども少しぐらいの夜更かしならいいだろう。ストン、と秀一さんの隣に座ってチョコレートを差し出せば秀一さんは笑みを浮かべながらそれを受け取ってお礼だと言わんばかりに私の額にキスをした。
「面白いパッケージだな」
「中身も面白いんですよ」
「中身?……ホー、」
秀一さんがゴムで止められている洋書箱を開ければ、そこに並んでいるのはチェス駒の形をしたチョコレート。キングにクイーン、ビショップが1個ずつ、ナイトとルーク、ポーンが2個ずつ並んでいる。少しばかり値が張るだろうか、とも思ったけれど秀一さんに渡す用だから、と思えば全然気にならなかったから不思議なものである。
「秀一さんってチェス出来るんですか?」
「あぁ、多少はな。ほら、口開けろ」
「え、私が食べたら意味ないでしょう、んんっ、」
秀一さんに買ったものを私が食べるとは何たる。抗議の言葉を放とうとしたところにチョコレートを放り込まれる。仕方なくもぐもぐと咀嚼をして味わうけれどもなんとなく眉根を寄せる。確かにそれなりの値段がしただけに美味しいのだけれど私が食べてしまっては意味はない。ゴクリと飲み込んでそう秀一さんに言おうとしたけれど、それは敵わなかった。
「っ、んん……、」
「は……、甘いな、」
唇を塞がれて、舌を絡まれる。口内を犯されて、同時に身体を引き寄せられて抱き締められる。唇が離れて息を吐けば、秀一さんは楽しげに笑みを浮かべていた。
「美味いな、」
「……これじゃ、意味ないと思うんですけど」
「チョコレートには、媚薬成分もあると言うじゃないか」
「知りません!」
頬を膨らませて秀一さんに抗議するも秀一さんに気にした様子はなくて、むしろ楽しそうに私の機嫌を取るかのように私の頬にキスをする。甘やかすようなキス。
「夜にこういうものを渡してくる、ということは期待してもいいのか?」
「……明日学校なんですけど」
「休むか?電話ぐらいはしよう」
「そういう問題じゃないんですー」
洋書箱の中からチョコレートをひとつ取り出してそれを食べる秀一さんを見ながら、頬を膨らませる。指に付いたチョコレートを舌で舐め取る秀一さんは官能的で、ドキリと胸が音を立てる。その姿をじっと見ていると、秀一さんと視線が交わって彼は口角を上げた。
「俺としては、このまま食べたいんだがな」
「えっち」
「男は狼だと言うだろう?」
洋書箱がパタン、と音を立てて閉じられて、身体を引き寄せられる。そのままキスをされながら秀一さんが立ち上がって、恐らくこのまま向かうのは寝室だろう。秀一さんに首に腕を回せば、秀一さんは満足そうに私の首筋に顔を埋めた。
「ホントに学校電話するんですかー」
「保護者なら休みの連絡をしないとな」
「容赦ないなぁ」
秀一さんにしがみついて、頬を緩ませる。リビングの電気を消されて、寝室へと向かう。朝起きるのは、遅くなりそうだ。
2019.2.11
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