Marguerite

私のパパとママ

*2人が結婚した後の話
*子ども視点

「呉羽、コーヒー貰っていいか?」
「あ、うん。ちょっと待っててね」

ときどき、パパとママを見て思うことがある。ママは、どうしてパパと結婚したんだろうって。仕事が忙しいからって家にいないことも多いし、命に関わるような仕事だからときどきママが心配そうにパパを待っていることもある。
ママがパパを大好きなことは見ててわかるけれど、逆はどうなんだろう。ママみたいに普段から笑っているような人ではなくて、時々笑う、というよりは微笑?笑みを浮かべる?そんな、小さな変化しか無い。私に向けてそんな感じに笑うこともあるけれど、どっちかというと無愛想だと思う。

「ママは、どうしてパパと結婚したの?」
「え?」

パパが仕事でいないとき、ママに聞いた。ママはどうしてかなぁ、と昔のことを思い出すように笑う。パパのことが大好きだって、表情で分かるぐらいに幸せそうに。

「パパのことが、好きで好きでたまらなかったからかなぁ」
「そんなに、パパのことが好きなの?」
「そうねぇ…うん、大好き」

初恋が、パパみたいなものだからね。そう言ってまた、ママが幸せそうに笑う。いてくれるだけで幸せ、だなんて言葉を聞いたことがあるけれど、ママもそういうことなのだろうか。なんとなく、ママにソレ以上聞くのが怖くて。私はそう、とだけ言って話を終わらせた。
パパは、どうしてママと結婚したのだろう。

 + + +

「パパは、どうしてママと結婚したの?」
「……どうした、いきなり」
「別に。ただ、気になっただけ」

パパの隣に座りながら尋ねれば、そうか、と小さく言って私の頭を撫でる。優しく撫でるその手の持ち主をちらりと見れば、昔を思い出しているのか少しだけ口角を上げる。

「パパが、ママを手放せなかったんだ」
「…傍に、いないのに?」

私の言葉に、ピクリ、とパパの動きが止まる。あまり家にいないことは、パパも気にしているらしい。パパを見上げると、困ったように眉間にシワを寄せている。少しマズイことを言ったかな、と思ったけれど、言ってしまったものはもう遅い。
暫く無言が続いて、パパは私の身体をひょい、と持ち上げて膝に座らせる。

「確かに、ママには寂しい思いばっかりさせてるな」
「だったら何で、もっと戻って来ないの?」
「……難しい、質問だな」

くしゃくしゃと誤魔化すように私の頭を撫でながらパパは家の外に視線を向ける。外は、私の気分とは裏腹に晴れ渡っている。

「ママに例え悲しい思いをさせることになったとしても、帰ってくる場所にママがいて欲しいと思ったんだ」
「……よく、わかんない」
「少し、難しかったかもな」

そのうちお前も分かるようになるさ。そう言って、パパは私を膝の上から下ろした。

 + + +

部屋の中に差し込む光で、目を覚ました。外はまだ暗いけれど、廊下に電気が点いていて、今日はパパが家を出るのが早いのか、と思いながら話し声がする廊下を少しだけ扉を開いて見る。廊下の先、玄関にはパパとママがいて、話をしているのが聞こえた。

「また暫くお仕事立て込むの?」
「前ほどは、長くならんだろうがな」
「そっか」
「…呉羽、」

また、暫く戻って来ないのか。そう思いながら見ていると、パパがママを引き寄せて抱きしめる。そのまま、ママの顔を持ち上げて、視線を合わせると同時にキスをして。

(っ……!)

パパがママにキスをするのも意外と言えば意外だったけれど、ソレ以上に、意地悪そうに、でも幸せそうにキスをするパパの顔。普段はママとも適度な距離があって、そんなに近い距離にいるのをあまり見たことがない。けれど、今は離さないというように近くて。何度も、ママにキスをしていて。
お互いに抱き合うようにして話す2人の声は聞こえないけれど、それでも仲よさげに、幸せそうに2人が話しているのは分かる。最後にもう一度ママにキスをして、パパが仕事に行く。家の扉が閉まる音が合図かのように、私は即座にベッドに戻って布団に入り込む。

(パパも、あんな顔出来るんだ…)

表には出さないけれど、私が思っていたよりもずっとパパとママは仲がいいみたいで。パパはママに悲しい思いをさせることになっても、と言っていたけれど私が考えていたよりもママは悲しい思いをしてなくて。なんとなく、今ならその言葉の意味が分かるような気がしたけれど、知りたくないような気もして。ぐるぐると渦巻く思考を消すように、ぎゅっと瞼を閉じた。

2015.08.14
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