Marguerite

衝撃をひとつ

 
帝丹高校に入学して、周りのコと歳の差を感じつつも平和な日々を過ごしていた。平和って素晴らしい。今のところ工藤くんは帝丹高校に事件を持ち込んではいない。このまま一年間は平和を貫き通したいものだ。
コナンになったらもう無理だと覚悟をするつもりではあるけれども。

(あ、コレ作ってみたいなぁ…。いやでも材料あったっけ?)

元々私は器用貧乏というやつで。大抵のことはそつなくこなしていた。それ故か、趣味と呼べるであろうものが多い。この世界に来る前は裁縫に夢中だった。ポーチとか鞄とか作るの楽しすぎる。
ただ、元の世界で社会人だった私が趣味に費やすことのできる時間は少ないわけで。高校生となった今は前よりか大幅に趣味に費やす時間が増えたのでまた何かを作ろうと本を引っ張りだしたというわけだ。……学校でそんなもの読むから友人が出来ないんだとかは言わないで欲しい。協調性が低いことは自覚しています。

「篠宮さん、次体育館だよ?」
「あ、そっか。ありがとう」

鞄とかの作り方の本を見ているとここをこうしてみたいと夢中になるのは良くないクセかもしれない。しかし私は入学直後でレクリエーションばかりで退屈しているんだ。
帰りに本屋に寄って新しい裁縫の本でも買って帰ることにしよう。頭の中で違うことを考えながら、私は体育館に向かった。

 + + +

今日も1日無事に主要メンバーと関わることなく学校生活を送ることが出来た。最近の私の目標はいかに彼らと必要最低限しか関わらないようにすることだ。平和主義者なんです。
本屋の棚を見ながら安堵の息を吐く。一人暮らしってことは買い物をする機会が増えるのか。エコバッグでも作ろうかな。エコバッグなら型紙はあったはず。あ、でもがま口の小銭入れとかも作ってみたい。

「篠宮呉羽」
「……え?」

どの本がいいかと数ページ見比べたりしながら吟味していたとき。この世界では帝丹高校の教師もしくはクラスメイトぐらいしか知らないであろう名前を呼ばれて振り向いた。
最も、教師やクラスメイトは顔と名前が一致してはいないのだろうが。
そこにいたのは、昨日すれ違った男。決して私の名前を知るはずのない彼が、私の名を呼んだ。

「篠宮呉羽、で間違いないな?」
「はぁ……」

何故彼が、私の名前を知り得たのだろうか。昨日すれ違っただけの何の変哲もない高校生の名を?それもまたおかしな話だ。
目の前に立つ彼は私を無言でジッと見る。特別変なところは無いはず、だ。見た目はただの女子高生。彼に引っかかるところは無いはず。それなのにここまで凝視するというのは、どういうことなのか…。

「お前は、何者だ?」

一体どれだけ無言で向き合っていたのだろうか。実際はそこまで長くないのかもしれない。けれど、今の私の状況は蛇に睨まれた蛙。その時間がとても長く感じながら、どうすることも出来ずに彼を見ていた。
そしてまるで私を見定めるように見ていた彼が開けた口からは、奇妙な質問だった。

「質問の意図が、分かりかねますが」
「お前の名前を知る機会があって、興味本位で調べてみた。それについては謝罪しよう」

意外と、礼儀正しい人なのかもしれない。いや、そもそも個人情報を無断で調べた時点で礼儀も何もないのか。
ところで彼は今何といった?名前を知る機会があって?

「何故、私の名前を……?」

自分の声が、思っていた以上に震えていた。私と彼は、昨日町中ですれ違っただけだ。私の名前を知る機会があったとは思えない。それにあの時から丸1日経つか経たない程度の時間しか経っていない。そんなことが可能なのだろうか?…彼なら可能な気もするけれど。

「昨日、コレを拾ってな。調べたら、お前に関する情報は一切出てこなかった」

彼が胸ポケットから出したもの。それは、私のまだ貰って間もない生徒証明書だった。もう落としたのか私…。
彼が調べたという私に関する情報。出てこないと言われてすごく納得した。私はこの世界の異端者なわけで。突如この世界に現れた私に関する情報がキッチリ用意されていた方が怖いぐらいだ。

「生徒証明書、返して頂いても?」
「……お前が何者なのか、答えてくれるならな」

生徒証明書をチラつかせながら言う彼に、私は眉間にシワを寄せた。

2014.05.18
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