Marguerite

独りより、一人

 
何故情報が出てこないのかと問われれば、それは私が本来この世界の人物ではないからと答えるしか無いだろう。ただ、その話を一体どれだけの人が信じるのか。まだこの世界に来て数日しか経ってないからこの先公式CPを生で見られないことは残念ではあるがこの世界に未練という未練はない。なのでいっそ元の世界に戻れたらとも思う。元の世界への帰り方は、わからないのだけれど。
私の生徒証明書は本屋で遭遇した彼の手の中にあるままだ。どこか話せるところに移動しようということになったのだけれど、人が多い場所は遠慮したいと告げて連れて来られた先は恐らく彼のものであろう車。左ハンドルのその車は暗くなった街を走る。
いざというときは通報するなり車を飛び出るなりして構わないと言われたので携帯は110を入力してあとは発信するだけにしてある。もちろん、車に鍵はかけられていない。…飛び降りるという選択肢は超人ではない私には中々勇気のいる選択肢ではあるけれど。

「……私の、何を知りたいんですか」

沈黙に耐えられなくて開いた口から出た言葉は、思ったより車内に響いた。
情報がない、という時点で目を付けられたのだろうか。大きな組織を追いかけている彼からすれば、危険は小さいうちに摘んでおきたいはずだ。彼が何故私を調べようと思ったのかは置いておいて調べられたのは事実。ヘタな嘘は恐らく余計怪しまれることになるだろうし、もう全てを話すしか無いだろう。

「呉羽、と言ったな」
「…はい」

いきなり名前呼びなんですか。言い出せる雰囲気ではないから黙っておくけれど。彼はハンドルを操作しながら、横目で私を見た。

「お前が素性を話すというのなら、こちらもある程度のことは話そう。最も、話せば命を追われることになるようなことは話せないが」

仕事上話せないことは上手いこと隠してそれらしく話すのだろう。その辺りはきっと上手いはずだ。そして、私が組織に狙われる可能性があるのなら。保護することも視野にも入れているのだろう。

「全てを知っている、と言ったら……どうしますか?」
「それが、どの程度によるな」

こんなにも早く誰かにトリップしてきたことを話すことになろうとは思っていなかった。帝丹高校のメインキャラに関わらなければ、暫くは平穏だと信じていたのだから。
膝の上に乗せた手を強く握りながら、私は口を開く。

「…貴方がFBIで数年前は諸星大という名前で黒の組織に潜入捜査していたこと」

その頃の彼は髪が長くて、アメリカの話で毛利蘭の後ろに立っているシーンは幽霊が立っているのかと思った。

「そのときに宮野明美と交際していたこと」

貴方と腕組をすることが出来る彼女が、少しだけ羨ましかった。隣に立つことさえ出来ない私と違って、隣にいられる彼女が。

「組織でのコードネームはライ」

お酒の名前でもあるけれど、嘘という言葉にもなるLie。それは、彼がFBIだということを示しているようだと思った。
淡々と告げられる言葉を聞いた彼は、急に車の進路を変えた。人気の無い場所に向かうのだろう。私が組織の人間なのかもしれないという最悪の想定を考えながら。
荒々しい運転に身体を揺さぶられながら着いた先は廃倉庫らしき場所。目の前に広がるのは海。あぁ、これで私が組織の人間だったらここで殺されてたのかな。今も危ういのは確かなのだけれど。これは、彼らの仲間もいると考えたほうがいいのだろうか。
ギアを変えて車を止めた彼を見ながら、私は彼にトドメを刺そうじゃないか。

「そうでしょ?赤井、秀一さん」

果たしてどのように話せば殺されないのか。どうせ考えてもまとまらないのだから今はただ脈絡がなくとも思いつくままに話すことにしよう。

 + + +

『何かあったら連絡してこい。時間があるときに連絡をしよう』

別れ際。そう言いながら渡して来た紙切れには11桁の数字と半角英数字の羅列。仕事用ではない、完全に私物だと言っていた。
トリップをしてきた、ということを彼に全て包み隠さず話した。最悪死ぬかもなんて思っていたのが馬鹿らしいぐらいに、彼は私に興味を持ったようで。もしくはこのまま組織の方に連れて行かれても厄介だと思ったのかもしれないが。私的には一人暮らしで家族も居ない天涯孤独ということを気にしてくれていたようなので前者だと思いたい。
彼に私の連絡先を渡すことも考えたけれど、暫く考えてそれはやめておこうという結論に至った。私から連絡するなんて恐れ多くて出来ないしそもそも連絡して何を話せというのか。近況報告?それもまた迷惑な話だ。それにしても。

(やっぱりイケメンだよなぁ、赤井さん)

車の中で運転する横顔をチラチラと見たのだが、どう足掻いてもイケメンだった。もうホント私なんかが隣にいてすみませんと言いたくなるぐらいの。そもそもこの世界の男キャラはイケメン率高すぎる。そんな中私の好きなキャラ1、2を争う赤井さんから心配されるとかそんな恐れ多いというか正直萌死にそうです。

キャラ愛云々は置いておくとして、この世界で独りじゃなくなったのは一歩前進と思ってもいいかもしれない。

2014.05.24
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