「あ、やってるやってる」
帝丹高校が見える歩道橋が見える建物から、歩道橋を見る。そこには、望遠鏡で帝丹高校を見ていた男とそれを取り囲むようにして立つ刑事さんたち。
結局エレベーターは原作通りコナン君がEVITのヒントを見たところで爆弾を止めてしまった。まぁそれが探偵の『Detective』の綴りの逆にして帝丹。その中でも全国模試をやっている高校に爆弾を仕掛けたと推理するコナン君は本当に凄いと思う。未来を知っているチートな私とは違う。いや、彼もある意味チートだけど。
(何者なんだい、ねぇ……)
エレベーターの中で聞かれた高木刑事の言葉を思い出す。見た目は女子高生だけれど中身はとっくに成人している大人で、異世界からきた自分はハッキリ言ってしまえば"異物"だ。この世界には存在しない、イレギュラー。
正直、FBIの人でも秀一さん以外の人がどこまで知っているのかは私は知らない。それを聞いてボロが出ても困ると思って、聞くことを避けていた。
「あー……煙草吸いたい」
買うことが出来ないというのに身体が求めるソレに、苦笑を浮かべながら空を見上げた。
+ + +
「一本、貰ってもいいですか?」
ベランダで私が欲していたソレを吸う秀一さんに、声をかけた。家の中が禁煙なわけではないけれど、人の家ということを気遣ってか秀一さんはいつもベランダで吸っていた。私も吸う本数は多くなかった…というより、数か月に一回数本吸えばいい方だったので吸うこと自体を止めることはなかったのだけれど。さすがに私が求めるとは思っていなかったのか、秀一さんは一瞬驚いたような顔をしつつ胸ポケットから煙草の入っていた箱を私に手渡した。
「元のところでは、吸っていたのか」
「時々、ですね。やっぱり働いてるとストレス溜まるじゃないですか」
受け取った箱から煙草を取り出して口に含む。箱の中にライターが入っているのかと思いきや見当たらず、とりあえず秀一さんの胸ポケットに煙草を返して秀一さんが吸っている煙草から直接火を貰った。
久しぶりに煙を吸い込む感覚が体を巡る。特別美味しいわけじゃないけれど、この苦味がクセになるというやつだろうか。
「呉羽、」
隣に立って煙草を吸っていた秀一さんが、私の名前を呼んだ。小さく返事をしながら振り向けば、腰を引き寄せられて口元が薄く開いたまま近づけられる顔。その意味なんて分かり切っていて、私も少しだけ口を開けて秀一さんを受け入れる。
煙草を吸っていたからなのだろうか。普段より苦味のあるソレに、私の舌を差し出す。
「っ、ぁ……」
何度しても慣れない感覚に、ゾクリと体が震えた。口内を犯されるのを感じながら息継ぎをするように離れた唇に開放させたのかと身体を身じろがせるも、またすぐに角度を変えて塞がれる。苦味と熱が広がる視界の端で、煙草の燃えた灰が床に落ちる。
「煙草、消すぞ」
「ん…」
自身の腕に閉じ込めるように秀一さんに引き寄せられながら、まだあまり吸っていないままに灰になったソレを奪われた。火を消された煙草が携帯灰皿の中へと入れられるのを見ながら、目の前の彼に抱き着く。ふわりと香る、彼自身の匂いと煙草の匂いが混ざりあった独特な匂い。人によっては嫌なのかもしれないけれど、私はこの匂いが好きだ。私の中では、これが秀一さんの匂いなのだから。
甘えるように秀一さんの背に腕をまわしていると、自身が吸っていた煙草の火も消した秀一さんが私の頬を持ち上げる。
「不安、か?」
「……少しだけ、ね?」
高木刑事に聞かれたときはなんてことなかったのに、ソレはじわりじわりと紙にインクが滲むように私を侵食していく。私という存在が、何を意味するのか。何故、ここにいるのか。いつか、私という存在が消えるのではないか。
女心は鈍いのに、どうして弱っているときに対しての勘はいいのだろうか。私のことを安心させるように頬や額にキスをする彼を見ながら思う。
「……このまま、溶けてひとつになっちゃえばいいのに」
私が小さく呟いた言葉は、静かな夜には十分すぎるぐらいに響いて。驚いたように、秀一さんの動きが止まる。私は秀一さんの動きが止まったことに一瞬首を傾げて、自分の言った言葉に対してだということに気がついた瞬間顔に熱が集まるのを感じた。
「違っ……いや、違くないんですけど、そうじゃなくてっ…」
そういうことが、したくないわけじゃない。私としては身体はともかく成人しているし平気なつもりだ。でも、今の言葉はそういう意味じゃ無かった。
何と言っていいのか分からずに慌てていると、少しだけあった隙間を埋めるように秀一さんに引き寄せられた。
「お前が不安だというのなら、俺でよければいくらでもくれてやる」
耳元で囁くように告げられた言葉に、秀一さんの服を握る。心臓の音が、秀一さんに聞こえるのではないかというぐらいに早い。
彼の言葉の意味が分からない程、子どもじゃない。羞恥を隠すように、秀一さんの胸元に顔を埋める。
「秀一さんが、いいです。他の誰でもない、秀一さんが」
突然の浮遊感に、私の口から小さく声が漏れる。気が付けば私の身体は秀一さんに横抱きにされていて。後悔するなよ、という言葉が聞こえて私は身体を強張らせた。
2015.06.12
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