外にでると、夜道に白い雪がちらついていた。最近やけに寒くなったとは思っていたけれど、雪がちらつく程だったのか、と小さく息を吐いた。
(秀一さん、どこにいるのかな……)
最早慣れてしまったとも言える突然の呼び出し。夜に呼び出されるということは珍しいけれど、無いわけじゃない。ときどきある。大体そういうときは何かしら外で食べることになるのだけれど今日も大方それなのだろう。秀一さんの誘い方はたまに分かりにくいのが傷な気もするけれど個人的にはそこが可愛いと思うのは惚れた弱みだろうか。
寒いし温かいものとか美味しい季節だよなぁ、とか考えながら歩いて携帯を取り出す。電話を受けたときは今いるところからもう少し先にいたはず。そろそろ連絡を入れた方がいいだろうか、と思っていると前方には毛利さんとコナン君。
(あれ、あの服装どこかで…)
前方から来る毛利さんとコナン君の距離はかなりあって2人はまだ私に気付いていないけれど、毛利さんの服装にどこか見覚えがあって首を傾げる。今まで私服の毛利さんを見たのは、それこそ数えるぐらいしかないだろう。じゃあ元の世界にいたときの記憶だろうかと思い始めたとき、私のいる場所より少し先にあった電話ボックスが開いた。
「あ……」
思わず、声が漏れた。そういえば原作でこんなシーンがあった気がする。平静を装って影で泣く人が誰かなんて、わかりきってる。私には一生敵うことのない、明美さんのことなのだろう。
秀一さんは私より先に毛利さんの方に気付いたらしく、そちらをじっと見ている。無意識に、私は服の裾をぎゅっと握った。
「また泣いているのか…」
「え?」
そういえば、2人はニューヨークで会ったことがあるんだったっけ。たまたまニューヨークで会って、また日本で会うだなんてこうして考えたらすごい確率なんだろうな。毛利さんにさえ嫉妬しそうな気持ちを抑えるように、私はコナン君に視線を逸す。毛利さんを庇うように立つ彼は、恐らく私には気付いていないのだろう。
「おまえはいつも泣いているな…」
「いけませんか?」
毛利さんが、溢れそうな涙を拭う。秀一さんも哀ちゃんも、毛利さんに明美さんを重ねるんだっけ。
風がふいて、沈黙が辺りを包む。先に切り出したのは、秀一さんだった。
「いや…。思い出していたんだ…。おまえによく似た女を…。平静を装って影で泣いていた…バカな女の事をな…」
原作だったら、ここで毛利さんとすれ違うはずなのに。秀一さんは一歩脚を踏みだそうとしてその場に止まった。
私が不思議に思うのと同時に、秀一さんは私の方をゆっくりと振り返る。どうやら、私の存在に気付いてないわけではなかったらしい。
「呉羽、」
「っ、あ、はい!」
まさかここで私の名前を呼ばれるなんて思ってもいなくて、少し変な声で返事をした。けれど、彼は気にした様子もなく行くぞ、なんて私に向かって言って毛利さんの横を通り過ぎる。一瞬私もどうしたらいいのか分からなくて止まったままだったけれど、コツコツと足音を立てて歩くものだからハッと我に返る。
「毛利さん、また学校でね」
軽く彼女に手を振って、小走りで秀一さんに追いつく。ポケットに手を入れたままの彼にどうしようかと一瞬思うも、とりあえず甘えるように彼の腕を掴んでおく。離されるのを覚悟で掴んだのだけれど、どうやらそれはしないようで私の方をチラリと見て特に気にした様子もなく歩き続ける。
「……知り合いか」
「クラスメイトです。彼女と会ったこと、あるんですよね」
「あぁ……」
歯切れの悪い秀一さんを見上げると、視線が交わる。何を思ったのか私の腕を引いて路地裏へと入った。急な出来事に何があったのかと思いつつコナン君が振り返ってもコレなら確かに秀一さんも私の姿も無いと納得する。
そんなうろたえる私を気にする素振りも無く、秀一さんは私の口を塞いだ。
「ぁ…ん、」
突然の出来事に、秀一さんから身体を離そうと試みるも後頭部を押さえつけられる。小さく漏れる声を抑えようと思っても抑えられなくて。絡められる舌に身体を強張らせて秀一さんの服をぎゅっと握れば、名残惜しむように軽くキスをされて秀一さんの身体が離れた。
くしゃり、と軽く頭を撫でられて、目の前の彼はしてやったりと言わんばかりにフッと笑う。
「そんな顔をするな。おまえは、代わりなんかじゃない」
「……ずるい人」
大通りを見ながら秀一さんに手を差し出されて、私はその手を取った。
2015.06.21
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