ポストに入っていた、一通の手紙。この世界に来てからは確認はしているものの私宛の手紙なんて無いに等しかった。ワインレッドの封蝋をされているその手紙には、『Vermouth』と書かれている。
(どういう基準で招待してるんだろう…)
封蝋を剥いでその手紙を開ければ、『親愛なる篠宮 呉羽様』と書かれている。季節外れのハロウィンパーティーへの招待状だ。勿論、参加者は仮装をして黒のドレスか黒のスーツを着用するようにとも書かれている。
自分ひとりでも仮装が出来ないわけではないけれど、するとなれば私よりももっとそういうことに関しては上の人が身近にいる。恐らく彼女にも招待状は来ているのだろう。私は携帯を取り出して、彼女の連絡先を探した。
+ + +
「え、ホントにやるんですか?」
「当たり前よ!どうせなら驚かせなきゃ!」
パチン、と夜だというのに部屋の電気を消していく有希子さん。息子がここに来るとわかっている辺り、さすがと言うべきだろうか。
招待状を貰って、その場で有希子さんに連絡をしたらすでに日本にいるとのことだった。しかも息子である工藤君を驚かせたくて家に戻ってきていると。どうせなら呉羽ちゃんも混ざりましょうよなんて言われて工藤家に行ってみればそれはもう楽しそうだった。
「あ、どうせなら呉羽ちゃん、部屋に倒れててみる?」
「私工藤君に滅茶苦茶疑われてる身なんですけど」
「だからよぉ!血糊で射殺されたみたいにして、疑似薬でもばら撒いちゃえばそれっぽいでしょ?」
有希子さんのモットーは、やるなら徹底して、なのだろうか。使ってない瓶とかあったかしら?なんていいながら空の瓶を探しているということは多分私殺られる。血糊はあったわね、なんて何で持っているんだと言いたくなる言葉は、聞こえないフリをしておく。
有希子さんがどこからともなく持ってきた水鉄砲を横目で見ながら、小さく息を吐いた。
「っていうか、工藤君が今日確認しに来るとも限らないんじゃないですか?」
「あら、絶対に今日来るわよ」
有希子さんは瓶を見つけたらしく、どこからともなく持ってきた薬を詰めていく。どうやら私がここで殺された風に見せかけるのは有紀子さんの中では決定事項ならしい。
勘とかですか?と尋ねてみればそんなわけないじゃない!と返される。ときどき勘で動いているような気がするのは私の気のせいだろうか。
「新ちゃん、今日昼間に水道のメーター見に来てたもの」
「……それを見ていた、と」
「もうバッチリ!新ちゃんはもうちょっと鍛えなきゃ駄目ねー」
…工藤君、可哀想に。そう思うのは仕方のないことだろう。多分有希子さんから優作さんに伝えられ、優作さんからそれなりの叱咤を受けることになるのだろう。
「じゃあ呉羽ちゃん、そこに横になって?」
ニッコリと笑って床を指差す彼女に、苦笑いを浮かべた。
+ + +
(早く工藤君来ないかなぁ……)
正直この時期に床に転がるのは冷える。一見人がいないということを思わせる為にも、暖房とかの電源は切られている。さらに言えばいつ工藤君が来るかも分からないので、ひたすら待つしかないのだ。
どれほどそうしていたのだろうか。ふいに、視界の端で扉が開いたのが分かった。多分、工藤君がここに現れたのだろう。
「呉羽……!?」
工藤君の声が、部屋に響く。本当に組織だったら私を見ても声を出さずに周囲を伺うぐらいはした方がいいだろうに。そんなことを思う私とは裏腹に彼は私の周りに散らばるバラ撒かれた擬似薬と血を見て私に駆け寄る。刹那、工藤君の頭に銃を模したソレが、あてがわれた。
2015.06.28
back