(希望なんて無かった)

 
10年程前。とある組織が崩壊した。証拠隠滅の為か、組織が使っていた建物は謎の爆発。FBIとの攻防で、重軽傷者多数。組織の人間で結局見つからないままだった者も数名。生きているのか死んでいるのか、今になっても分からないままだ。

あの建物の爆発で、俺らは全てを失った。

建物は全焼。幸か不幸か死人は発見されなかったが、データなど諸共吹き飛んだ。勿論、俺が求めていた薬の解毒剤を作るためのデータも。
元に戻るための術を失った"工藤新一"と"宮野志保"は死亡したこととなり、二人は子供の姿のまま、"江戸川コナン"と"灰原哀"として生きることを強いられた。

(変わらねぇな、ここも……)

俺が小さくならずにいたのならば、とうの昔に卒業していたであろう高校。蘭が高校を卒業してからはめっきり来ることがなくなって、ここに来るのは数年ぶりだ。けれど、中はほとんど変わっていなくて。どうにも、昔に戻ったような気分だった。

 + + +

正直、委員会なんてどこでも良かった。ただ、図書委員なら適当に開いた時間に本でも呼んで時間を潰せる。その程度だった。

(結城、葵……)

小学校中学校共に同じだったけれど、同じクラスになったのは1回だけだっただろう。おとなしい彼女は真面目で、普通の人、という印象だった気がする。
チラリ、と彼女がこちらを見たけれど特別気にすることでもないだろう。視線を返すこともせずに当番の日付が書かれている紙に視線を落とす。
もう元の体に戻ることは出来ないと分かってから、人付き合いというものは極力絶っていた。同級生たちは自分からすれば10も年下で、断った、というよりも自然に離れていったというのが正しいのだろう。年が10も違えばいろいろとあるものだ。そして、その差は決して埋まるものではない。
灰原はもともと大人びた感じだったからかそのまま通していたが、疑われることもあって子供らしさを強調したようなことをしていた自分に限界が現れるまでは、遅くはなかった。
もともとの推理力、子供なことを利用して大人を欺く演技力、同い年の子供以上の経験、事件に巻き込まれることが多いゆえの環境。いろいろなものが重なって、今の自分が出来上がって。いつしか、"工藤新一の再来か"なんて言われて。

(本人だっつーの……)

工藤新一が死んだことになって。遺体がないまま、密やかに葬式が行われた。組織がいないから蘭に全てを話そうかとも思ったけれども、その先にあるものに希望なんて無くて。警察から聞かされる知らせを泣きながら聞いた彼女を思い出すと、今でも胸が痛む。
後悔を、しなかったわけじゃない。今でも、もし俺が全てを話せば、蘭は俺を選んでくれていたのではないかと思うことがある。
月命日になるごとに、蘭は入ってもいない俺の墓に色とりどりの花を添える。最初の頃は墓の前でなく姿もあって、俺にはそれが耐えられなくて、毛利家を出た。

『誰も住む人間がいない家は、すぐに痛むというから』

そう言って、工藤家の家の管理という名目で自分の家に戻ってきた。

「随分と、死にそうな顔ね」
「……灰原か」
「吉田さんが心配してたわよ。いつもに増して、死にそうな顔をしてるって」
「関係ないだろ」

下駄箱で話しかけてきた灰原の横を通りすぎて、外履きに履き替える。年が変わらず話せるからなのだろうか。灰原とはどうにも言い合いになることが多い。唯一俺が話す人間だと、中学の頃に噂になったことがある。最も、そのときは灰原の『バカじゃないの?』という一言で収まったのだが。
どうにも今の世界は窮屈で。誰とも関わりをもつことが嫌で。勉学だけをしていれば教師が特別文句を言ってくることもない。これから二回目になる高校生活を想像して、小さく息を吐いた。
 

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