(得たものは、ずっと昔に欲していたものだった)

 
「……コレ、元のとこ戻しておくから」
「あ、うん…」

返却口に溜まっていた数冊の本。厚さの薄いものから厚いものまで様々に積まれたそれを持ち上げて本棚へと歩く。正直、人の顔を見ながらしなければならないカウンターよりも一人で黙々と作業の出来るものの方が有り難かった。それなら、人と関わらずに作業が出来る。

(……やっぱ、気にされてんのか)

同じ委員会になったときから、薄々気になっていた視線。疑うような、観察するような視線は同じ委員会になった結城葵のものからだった。今までそんなものは感じなかった視線は、一番最初の委員会から隠すつもりもないのかはたまた観察の仕方が下手なのか痛々しいぐらいに突き刺さる視線。
何をそんなに気にすることがあるのか、と思いながら最後の一冊を本棚に戻して別の本を片手にカウンターに戻る。

「…あと、何かすることあんのか?」
「人が来たらあるかもだけど、特には…。寝るの?」
「流し読みするだけだから、手が回らなくなったら声かけてくれ」

正直な話、色々と模索されるのも面倒だ。本でも読んでいれば、わざわざ邪魔してくる人間は少ない。今まで何度も読んでそろそろ内容を覚えそうなシャーロック・ホームズの本を開いた。

 + + +

「悪いけど、江戸川君いるかしら?」

放課後になって、クラスに灰原の声が響いた。扉の近くにいた結城に声をかけたアイツは、まだ俺の存在には気付いていないらしい。幸いなことに、すぐに灰原と結城の死角になるような位置に居た俺はその死角に入り込む。
灰原を始めとする少年探偵団のアイツらが嫌いになったわけではない。けれども、どうにもアイツらには俺に対して気を使われている気がして、先に、一線を引いた。

(俺なんかに関わると、ロクなことにならねぇしな…)

今でこそ命の危険は減ったかもしれないが、ゼロになったわけじゃない。組織は崩壊したが、行方が分からなくなっている奴らもいる。逆恨みをして復讐に来る可能性だって、ゼロではないのだ。
未だ扉の方にいるであろう灰原に頼むからさっさと去ってくれ、と思いながら壁に寄りかかると、視界に結城が現れる。

「灰原さん、来てるよ」
「………何で見つけるんだよ」
「さぁ?探偵なら、考えてみてよ」

挑戦的に口角を上げて笑う結城。どうにもその姿にイライラして、舌打ちをして灰原のいる方へ歩く。腕を組んでこちらを見る彼女の手には、何か小さい紙袋のようなものがある。

「珍しいじゃない、貴方が私以外の人とまともに話すなんて」
「別にまともでもなんでもねぇだろ。場所、変えるんだろ」
「えぇ。そのつもりよ」

二人で話す内容が年相応じゃないこともそうだが、言い合いになって後日変な噂が流れても困る。その為、内容次第では二人で話すときは人気のないところを選んでいる。
最も、それが変な噂の原因になったこともあるのだが。

「それで、今度はなんなんだよ」
「……あの薬のデータがない状態でどこまで完成品に近いものが出来るか、試していたのよ。まだ完成品とは呼べないけど、比較的それに近いものよ」
「……は?」

差し出されたのは、灰原が手に持っていた小さな紙袋。それを受け取って中身を確認すれば、中にはピルケースに入れられたいくつかの錠剤。

「元に、戻れるかもしれないってのか?」
「微妙なところね。前から作ってた解毒剤と私の頭の中にあるデータだけで作ったから完璧ではないわ。データが無いせいで、10年もかかったけれど」

『使うか使わないかは、貴方次第なんじゃない?』と灰原は言うだけ言って去っていく。残された俺は、感情を押し殺すように、紙袋を握りしめた。
 

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