貴方の行く末が心配だったんだ。
(今日も休みなのか……)
昼休み。視線の先にある空席は、江戸川君の席。彼が突然休み始めて、一週間が経とうとしている。特別何かあるわけではないけれど、強いて言うなら委員会どうるすんだよ、という話だろうか。一人で回せない量ではないけれど、もしこのまま暫く休むというなら出てきたときに八つ当たりに一発殴らせてほしいものである。
「今日も、江戸川君は休みなのね」
「え……」
やけに近くから聞こえた、灰原さんの声。それはさりげなく私の隣の席に座っている彼女の声で、そこにいるのが当たり前、と言わんばかりにこちらを見ている。話すのは、帝丹高校に入学してから2回目だろうか。
「……何か?」
自分でももう少し聞き方があるだろう、と言葉を発した後に思ったけれども言ったものはもう遅い。苦手なわけではないけれど、大人びた彼女にはなかなか慣れないものがある。
「委員会が、一緒らしいわね」
「まぁ…」
まるで私のことを見定めるかのように、上から下まで見ていく。これは、アレか。江戸川君に近付く雌猫がどんなものか見定めているのか。
「そんなことないから安心なさい」
「え」
「顔に書いてあるわ」
どうやら灰原さんは私を見定めているわけでもないらしい。聞くところによると、ただの好奇心だそうだ。人との関わりを避けていた江戸川君が、同じ委員会とはいえ何故話すようになったのか。
余談ではあるが、私自身彼とそんなに話しているつもりはないのだけれど今までの彼からするとかなり珍しいことらしい。
「それで、貴方にお願いがあるのよ」
灰原さんが机の上のファイルを私に押し付けるようにして渡してくる。渡されたファイルと灰原さんの顔を交互に見て受け取れば、中身は授業のまとめのようで。
「私が行ってもどうせ突っぱねるだけだから、貴方にお願いしたいのよ」
「私が行ったら扉を開けてくれそうにないんですがそれは…」
「江戸川君の家のとこまで一緒に行くわ。江戸川君が扉さえ開けてくれればいいんだから」
+ + +
灰原さんが、江戸川君の家のインターフォンを押す。インターフォンのカメラに私が映る可能性があるので私は少し離れているところにて待機中だ。
灰原さんいわく、扉を開けてもらえるのは灰原さんで、江戸川君の話を聞いてあげられるのは私とのこと。ここに来るまでに『例え江戸川君がどんな状態でも驚かないでね』と言われたけれど、病気で休んでいるのなら仕方のないことだろう。二つ返事で了承済みである。
インターフォンに向かって何か話していた灰原さんが、私の方を見ながら手招きをしたのでそちらに向かう。
「後は任せたわ」
「え、帰っちゃうの?」
「私がいても言い合いになるだけだもの」
そう言って、灰原さんは隣の家に入っていく。どうやら家は隣だったらしい。手に持っているプリントを眺めて待っていると、ガチャリと扉の開く音がした。
「プリントぐらい、ポストにでも何でも入れとけば…………結城…?」
「……え?」
扉を開けて現れたのは、口調は確かに江戸川君で、けれども10歳程年齢が上であろう、男の人だった。
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