目を閉じて見えた景色は真っ黒だった。

 
暗い、暗い夜だと思った。そんな中に、月の光が反射する銀髪。とても、愛しく思ってしまった彼が、そこに立っていた。

「ごめんなさい、突然呼び出したりして」
「何かあったか、」
「そう、ね」

風が、彼の銀髪を揺らす。とても、綺麗な色。どうして最初に見た景色が、貴方だったのだろうか。せめて他の人であったのなら、私は貴方に溺れずに済んだかもしれないというのに。

「どうして、殺さなかったの?私は、貴方に殺してと頼んだのに」
「…さぁな。テメェの頭で考えろ」
「それは、期待してもいいのかしら?」

相変わらず愛想の無い彼を見上げれば、いつもと変わらない人でも殺せそうな鋭い瞳。彼に近寄って、その頬に手を伸ばす。すると、彼は慣れた手つきで私を引き寄せて腰に腕を回した。息を吸えば、ふわりと煙草と彼の体臭が混ざった匂い。大嫌いで、大好きな匂い。

「ねぇ、貴方にお願いがあるの」
「何かあったのか」
「記憶、戻っちゃった」

私の言葉に、彼が目を見開く。きっと、彼はこれを望んでいなかった。私が全てを思い出してしまえば、私と彼の関係はその瞬間に破綻する。私が組織の人間だなんて、彼の作り上げた嘘なのだから。

「ごめんね。私、酷い女ね?」
「……実琴、」
「ふふっ……貴方は、思い出してほしくなかったんでしょう?」

私は、確かに組織の人間だった。けれどそれは赤井と同時期に行った潜入の為だ。赤井はFBIだということがバレたから抜けだしたけれど、私は幸か不幸かバレなかったからそのまま組織にいた。その中で、ジンと身体の関係を持ったことだってある。きっと、私は彼に気に入られていたのだろう。否、もしかしたら。

「記憶が無いままだったら、私はきっとそのまま組織にいられた。ジン、知ってるんでしょう?私が、何者なのか」
「FBIで、組織に潜り込んだネズミ…。そうは、思いたくなかったがな」
「貴方がそれを告発すれば私はきっと記憶を無くして意識を取り戻した瞬間に殺されていたのだろうけれど…それを止めたのは貴方ね?」

私と、彼の視線が交わる。無言は、肯定の証。あぁ、酷い人。記憶を無くす前までは大嫌いだったのに、今ではこんなにも貴方が愛しいなんて。
でもそれは、きっと彼も同じで。抱き合うような体制を崩さずに私を見る貴方は、私の自意識過剰なんかじゃなくて、きっと。

「願いは、何だ」
「…殺して、」
「……何?」

彼の眉間に、シワが寄る。白に黒が混ざってしまった私は、もう二度と白には戻れない。どちらにもなることが出来ない私は、すごく、半端な存在。どっちに属するにしても、お互いにリスクがある。だったら。

「貴方の手で、私を殺して?」
「……それで、いいのか」
「白に黒が混じれば、白には戻れないもの。貴方に殺されるのなら、幸せだわ」

好きな人の腕の中で死ねるって、素敵なことでしょう?
私が彼にそう言えば、彼は諦めたのか私の蟀谷に拳銃を押し付ける。彼が引き金を引いてしまえば、私は永遠の眠りにつける。

「さよなら、愛しい人」

最後に、彼の腕の力が強くなって。耳を切り裂くような音がした。最後に見えた貴方の顔が泣いていたように見えたのは、気のせいかしら?

2016.02.20
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