Marguerite movie

突然のカーチェイス


とある夜。珍しく沖矢さんじゃなくて秀一さんと出掛けていた。出掛けていた、と言っても実際はドライブしてただけなのだけれど。でも、私からすれば沖矢さんじゃなくて秀一さんと、というのは嬉しいものだ。そんなとき、ふと私の携帯に入った新着ニュースを見て秀一さんに声をかけた。

「そういえば、秀一さんって高いところ平気ですよね?」
「あぁ。狙撃でビルの上にいることもあるからな」
「落ち着いたらでいいんで、水族館行きたいんです」

ほら、大きい観覧車のある。そう私がいうと、そういえばテレビでやってたな……、と思い出したように呟いた。私もではあるけれど、それ以上に秀一さんは人混みが好きな方ではないからこういうことに誘うのは気が引ける。でも、どうせなら夜に行って夜景も楽しみたい。観覧車の中も、広いみたいだし。

「ただ、待たせることになるが……」
「待ちますよ、秀一さんの為なら」
「悪いな、あまり構ってやれなくて」
「安心して暮らせるようになるまでは、仕方ないですよ」

それだけ、秀一さんが追っている組織が大きいということだ。それは私だって分かってるし、なにより私も一応は組織に狙われる身。まぁ、組織というよりはジンから、みたいなところもあるけれど。
居心地のいい無言の中流れる景色を眺めていると、突然携帯のバイブ音がした。それは秀一さんの携帯で、秀一さんがすまない、と一言謝って電話に出る。

(今日の夜は、秀一さんお仕事かなぁ……)

この時間にかかってくる電話なんて、それぐらいしか思いつかない。運転をしながら通話をする秀一さんを見て、器用な人だと思う。私だったら事故を起こしそうだ。そもそも車の運転をこっちに来てからは全くしていないから、それもあるとは思うけれど。

「……呉羽、」
「はい?」
「悪いが、あまり時間が無い。このまま直接向かう」
「それは構いませんけど……」

そんなギリギリに連絡が来るなんて珍しい。そう思ったのも束の間、秀一さんが一気に車のアクセルを踏み込む。

「え、えっ……!?」
「喋ると舌噛むぞ」
「っ……!!」

秀一さんに言われて、慌てて口を閉じて手で抑える。このまま直接向かう、とは言われたけれどどこに行くのだろうか。そもそも、何が起きたのか。というかこんな派手な運転をするなんて聞いていない。

(確かに元の世界にいるときは秀一さんの助手席に座りたいとか思ってたけど……!!)

勿論、普通のときだけじゃなくてカーチェイスをしているときも思ったことはある。でも、実際に乗ってみるとコレは危ない。秀一さんの運転技術は信用しているし、事故を起こすことはないとは思う。でも。

「ここ一般道ですよ…!?」
「高速道路に見えた方が問題だな」
「そういうことじゃなくて…!!」

一般道で高速道路の制限速度以上のスピードを出すのはどうなのか、ということを言いたかったのだけれど、秀一さんは気にした様子もなくぶつけたりはしないさ、と言う。違う。そういうことじゃない。というかコレは通報とかあったら問題がありそうだけどどうなのだろうか。上手いことジェイムズさん辺りが揉み消すのだろうか。

「アレだな……」
「えっ、アレ安室さんの車じゃないですか?」
「狙いはその前の車だ。恐らくアイツが警察庁の機密データを持ち去った奴だろう」
「警察庁、の…?」

それって犯罪とかそういうこともそうだけれど、いろいろと問題があるのではないだろうか。まぁ、だからこそ公安である安室さんが車を追っているのだろうけれど。

「でも、警察庁のデータなら秀一さん関係ないんじゃ…?」
「それが、持ち去られたデータがいわゆるスパイ情報でな。恐らくあの女は組織の人間だ。そして、あの女がデータを持ち帰れば世界中がパニックになる」
「な、なるほど…。って、ちょっと料金!!」
「言ってる場合か」

勢いよく走らせている車は、ついには高速道路へと移動する。しかし三台とも当たり前だけど料金所で止まるようなことはせず、容赦なく突き抜けていく。これは後々公安である安室さんが何とかしてくれるのだろうか。今はただ、そう願うばかりだ。
そこで、何かが胸に引っかかった。すごい勢いで走る車が三台。いわゆるカーチェイス。持ち去られた機密情報。持ち去ったのは、組織の人間。

(もしかして、映画……?)

原作と違って、映画の話なんていつ始まるか分からないしそもそも時系列がどうなるか分からないものが多くて何も心構えをしていなかった。まさか、こんなに突然始まるだなんて誰が予想しただろうか。とりあえずは出来ることをしよう、と私は鞄の中から携帯を取り出した。

2016.04.11
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