Marguerite movie

迫り来る車


車同士がぶつかる音と、ブレーキ音が響き渡る。先頭を走る女性が運転する車と安室さんが運転する車、秀一さんが運転する車はまぁそれなりに避けて走っているけれど、何せいきなり100kmを超えるスピードで走行する車がスピードを落とすことなく二車線を移動しているのだ。そりゃあ巻き込み事故も起こすだろう。

「誰だっ…!?赤井!?」

外から安室さんの声が聞こえた。そのとき、秀一さんと安室さんの視線が交わる。
刹那、秀一さんの運転している車がスピードを上げて安室さんの車の前へと割り込んだ。同時に安室さんがハンドルを切ったのか、RX-7がマスタングの右車体に激突する。
秀一さんの運転は信頼している。秀一さんほどではないけれど、安室さんも。でも、ちょっと遺書でも書いた方がいいだろうかという気分だ。

「下がれ赤井!奴は公安のものだ!!」

安室さんの声が聞こえた。お互いに睨み合っているのをヒヤヒヤとしながら見ていると、クラクションが高速道路に響く。前方を走る女の車が、路肩を走り軽自動車へとぶつかっていた。

(コレ、保険降りるのかな……)

秀一さんや安室さんの車もだけれど、他の車も。
女の車は軽自動車への衝突をやめる様子はなく、軽自動車はもう一度、と言わんばかりに女の車に当てられて回転しながらこちらへと向かった。

「っ――!!」

思わず、息を飲む。けれどさすが秀一さん、というべきところだろうか。咄嗟にハンドルを切って、その軽自動車を避ける。安室さんもそれは同じだったようで、私はほっと息を吐く。
秀一さんが後ろを振り返って後ろの人達を確認しているのを横目で見て、私は調べていたことを伝えるべく口を開いた。

「このまま進んでも良さそうですけど、この高速、工事で渋滞してるみたいですよ」
「なるほどな…。呉羽、銃は持ってるか?」
「私のですか?一応ありますけど…」
「そっち側にいると危ない。降りるぞ」
「えっ、それ駄目なやつ…!」

秀一さんが車を止めて、私の止める声も聞かずに容赦なく高速道路、それも橋の上に降りる。そして、トランクから積んでいたライフル一式を下ろす。
この状況だし降りてもこの事故者まみれになってしまった高速道路を走行する車はいないだろう。私も車を降りてポケットに入れていた銃を持ってライフルをケースから取り出す秀一さんを見る。秀一さんの車の後方で悲惨なことになっているタンクローリーたちは見なかったことにしよう。ライフルとか使ってる時点で察して欲しい。

「まさか、狙撃するんですか?」
「あぁ。渋滞しているということは、そのまま突っ込めば本人も危ない。だったら、引き返してくるだろうな」
「はた迷惑な……」

安室さんがまだ追いかけてはいるけれど、まぁ安室さんならなんとかするだろう。うん、別に放置するわけじゃない。信頼しているんだ。多分。
秀一さんは車のフロント部分を台にするようにして、銃を構える。

「え、私は何をすれば…?」
「隣にいろ。銃は念のため持っておくだけでいい」
「まぁ、撃てって言われても撃てませんけど…」
「大丈夫だ。お前のことは、俺の命にかえても護ってやる」
「それで秀一さんが死んだら、私一生恨みますからね」

秀一さんの車に隠れるようにして、そのまま道路に座る。一応右手に銃は持っているけれど、秀一さんが狙撃をするつもりな以上は私が使うことはないのだろうけれど。小さく息を吐いて、隣で構える秀一さんを見る。うん、やっぱりカッコいい。

「あまりジロジロ見ても何も出ないぞ」
「目の保養にしてるだけなので気にしないでください」
「視線が痛い」
「はーい…」

私がおとなしく座って橋の外を眺めていると、徐々に聞こえてくるエンジン音。秀一さんんの車越しにちらりとそれを見れば、機密データを持ちだした女性が乗っている車だった。しかも、彼女の車は二車線使って止めてある秀一さんの車に気付いてブレーキを踏むどころか思いっきりアクセルを踏んでスピードを上げてくる。

(外したら怪我なんてものじゃすまない…!)

ホントは逃げ出したいのを堪えて、泣きそうになりながら秀一さんを見る。大丈夫、彼ならちゃんと迫り来るタイヤを撃ちぬいてくれる。そう頭ではわかっているのに、無性に怖い。
どれぐらい、迫ってくる車を見ていたのだろうか。実際の時間は短いのかもしれないけれど、私にはとても長く感じた。そして、私は激しい音で我に返る。その音の原因は秀一さんが放った弾丸で、車はブレーキ音を立てながら海へと沈んでいく。

「落ち、た……?」
「あぁ。車が止まるか、飛び出てくるのを狙ったんだがな」

落ちた以上は彼女のことはもう探しようがない。ここから先は、警察か公安の仕事だろう。一般人である私やFBIである秀一さんが探すわけにはいかない。
そのとき、車の音がしてそれに振り向けば安室さんだった。逆走していた彼女を追いかけてきたのだろう。けれど、彼女の姿はここにはなくて。

「赤井っ…!貴様…!!」

ここにいない彼女と、秀一さんを見て察したのだろう。私は安室さんから広くて暗い海へと視線を移す。真っ暗な海は何も見えなくて、車がどこに沈んでしまったかすらもう分からない。ちゃんと映画の通りに進むのなら彼女は確か海から這い上がって遊園地の方へ向かう筈だ。そこでコナン君たちと会うはず。

(彼女のことは、コナン君たちに任せるかな……)

途中からは、公安の手に渡ってしまうのだけれど。恐らく私は遊園地に秀一さんが向かうときに置いてけぼりにされるとは思うれけど、生憎私は大人しく待っていられるような性格をしていない。観覧車の爆弾事件のときみたいに叩かれるだけで済めばいいけれどグーで殴られるのもツラいかな。

「取り逃がしました。後始末は頼みます」

聞こえてきた秀一さんの声に、考えこんでいて飛んでいた意識を戻す。どこからか、サイレンの音が聞こえ始めている。恐らく、この騒動で警察が駆けつけ始めたのだろう。パチン、と秀一さんが携帯を閉じて、使ったライフルをケースに入れ始める。秀一さんが頼んでいた通り、後始末はジェイムズさんがなんとかしてくれるのだろう。

(組織が、動き始めたのか……)

家に帰ったらこの映画の内容をハッキリ思い出さなければならない。2年ぐらい前の記憶をハッキリ思い出さなければならないことに、私は小さく息を吐いた。

2016.04.14
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