降谷さんが私に投げかけた質問に、目を細める。別に私がどうだとか疑うような言葉ではなくて、ただ純粋に気になっていたのだろう。降谷さんの言葉を、私は頭の中で反復する。
―どうして貴方は、そんなにも赤井に執着するんですか。
「言って いませんでしたっけ、」
「詳しいことは。あのときは、ゴタゴタして聞き損ねてしまいましたから」
「ゴタゴタさせたのは降谷さんでしょう」
降谷さんの顔はいわゆるイケメンに分類される顔だ。だからこそ彼は私にロミオトラップとも取れるようなことを仕掛けてきたのだけれど素性を知っている私からすれば気持ち悪いことこの上なくて失敗している。しかしそれは今は関係の無い話だ。
あぁ、そういえば質問を投げられたんだっけ、と思考を元に戻す。執着。降谷さんから見れば、私は執着してるように見えるのか。
「間違っては、ないのかも」
「間違って?」
「執着。うん、依存もあるかな」
私の言葉に、降谷さんは疑問符を浮かべる。執着と依存。恋心とは違い酷く汚い感情にも思えるけれど私の気持ちは確かに1番それがしっくり来るだろうか。
「何もなかった私に、手を差し伸べてくれたから」
「あの赤井が、ですか」
「えぇ。両親を亡くして、兄の行方も分からず1人の私に手を差し伸べてくれた。見ず知らずの私の傍にいてくれた。依存するには、十分でしょう?」
例えそれが監視目的でも、何もない私の近くに秀一さんはいた。身内も、家族も、誰もいない中、この世界にいてもいいのだと、思わせてくれた。それだけで、私には十分だった。
「お兄さんが、行方不明でしたよね」
「えぇ。ある日突然連絡が取れなくなって、そのまま」
「もしもそのお兄さんが生きているとしたら、呉羽さんはどうします?」
「……どう、するかな。今までどこで何をしていたのかで、変わりそうですね」
もしも兄が今もいたなら、どうしていただろうか。ここまで秀一さんに依存しなかったかもしれない。もう少し、可愛らしい恋心を持てたのかもしれない。けれど、それは可能性の話であって今の私は違う。
「恨みは、しないんですか。お兄さんのこと」
「どうでしょう。一回ぐらい、殴っちゃうかもしれないですね」
元の世界で、あの人は今どうしているのだろうか。私も結構ブラコンだった自覚はあるけれどそれ以上に兄はシスコンだったから、ちゃんと睡眠と食事をしてくれていると嬉しい。そんなことを思いながら、兄の事を思い出して頬を緩めた。
+ + +
誰もいなくなった店内でしゃがみ込んで、頭を抱え息を吐く。彼女が赤井の恋人であり、どこか依存的であることは知っていた。赤井のフリをして近付いたときも、ボロボロと泣く彼女を見て俺の中にある良心が痛んだのも事実だ。まぁ、結局見破られたのだが。
(兄が生きていたらどうする、か……)
彼女の両親は事故死。兄はいつの日からか行方不明。それは俺自身が彼女に近付く際に調べた紛れもない事実だ。けれど、俺は恐らく彼女自身が知りえないであろう事を知っている。
「言えるか、こんなこと……」
何も知らないなら、それでいい。どこか年齢より大人びて見える彼女は、赤井の前ではそんな顔も出来るのか、というぐらいに可愛らしい顔をするのを見たことがある。赤井が好きだからこそ、そして俺に対しては薄々トラップを仕掛けてきたことに気付いて故の表情なのだろう。ジンに目を付けられた彼女が、俺の知っていることを知らないままであってほしいと思うが彼女が赤井の傍にいる以上は時間の問題だろうか。大きく息を吐いて、今はそれよりも目の前の仕事とサミットのことだ、と立ち上がった。
2018.04.04
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