Marguerite movie

探り合い


『突然ですが今入りましたニュースを……』

テレビから流れてくる声に眉をしかめて視線をそちらに向ける。それは、東京サミット会場が何者かに爆破された、というもので、爆発映像を見ながらソファーに座る。黒い煙の中から一瞬見えたのは、色素の薄い髪。

(あぁ、アレか……)

くしゃり、と寝起きの髪を掻き上げて息を吐く。そういえばそんな話あったな、とどこか昔の事のように思いながら体操座りをしてテレビを眺めていると、部屋の扉が開いてその人物は驚いたように小さく声を漏らした。

「起きてたのか、」
「ついさっき、ですけど。東京サミット会場、爆破されたらしいですよ」
「また物騒な事件だな……」

どさり、と私の隣に腰掛けた秀一さんは私がこの時間まで寝ていることとなった原因なのだけれどその話は割愛することにしよう。朝飯はどうする、もう昼ですよねもう少ししたらお昼ご飯にしましょうか、そんな他愛もない話をしながら画面を見ていれば、ふいに秀一さんに頭を撫でられた。

「どうしました?」
「……知ってるん、だな」
「あぁ…そう、ですね。忘れてましたけど。……薄情だって、思います?知ってるから防げたかもしれないけど何もしなかった私を」
「もし何かをして呉羽が死んだら、本末転倒だろう」

当然のように言う秀一さんの言葉に、フッ、と私は吹き出して笑みを浮かべる。それが当たり前かのように私がいることを選ぶことが妙に面白くて、頬を緩めたまま彼に抱き着いた。

 + + +

「顔、怪我酷いですね」
「あぁ…探偵の仕事でちょっとありまして。それより珍しいですね、呉羽さんがここに来るの」
「夕飯作るの面倒だなぁって。その顔だと安室さん目当ての人が嘆きそうでうね」

私的には全然興味ないんですけど。そんなことを言いながらペラリとポアロのカウンター席に座ってメニューを見る。カウンター越しの彼が苦笑いをしているけれど私が彼に毒突くのは今に始まったことじゃないから気にするほどでもないだろう。

「そういえば安室さん、この前一瞬だけニュースに映ってましたよ。東京サミット爆破のカメラ映像に」
「……何のことですか。僕はあの爆発のとき探偵の仕事をしていましたよ」
「じゃあ、そういうことにしておきます。あ、ナポリタンひとつ」
「承知しました」

正直なところ安室さんに深く関わるつもりはないからスルーしてもらって構わないのだけれど、トリプルフェイスというのも大変だなぁなんて他人事に思う。実際他人だし。
頬杖を付いて私の注文したナポリタンを作り始める安室さんをぼんやりと眺めていると、ふいにポアロの外から騒がしい声が聞こえてくる。何かあったのだろか、と視線をそちらに向ければ、男性が三人。真ん中は毛利さんのお父さんだ。

(あぁ、連れて行かれる、)

ということはそこに風見さんもいるのだろうか。手は動かしたまま視線をそちらに向けている安室さんに気付いて、器用なものだとひっそりと息を吐く。幸いなことに今の店内は私一人だ。私が安室さんの本名と所属を知っている、ということは彼も知っているから、そこまで隠す必要もないと思ってのことなのだろう。一応私一般人なんだけど。

「毛利さんのお父さん、何かあったんですかね……」
「さぁ……。珍しいですね、気になるんですか」
「一応、クラスメイトのお父さんですしね。あれだけがっつり拘束されてるとなると東京サミットの爆破関係ですかね」
「お待たせしました、ナポリタンです」
「あ、有難う御座います」
「ちょっと、外掃いてきますね」
「はーい」

私にナポリタンを出した安室さんはポアロに私を一人残して箒と塵取りを持って外に出た。外には、小さな少年の影。最初に声をかけたのは、コナン君。開いたままの扉からはコナン君の声が聞こえてきて、それはどこかカリカリしているように聞こえる。

(好きなコのお父さんが連行されるとなると、そうもなるか)

ましてや、安室さんが仕組んだと思える状況だ。安室さんなら毛利さんのお父さんのパソコンを使うことだって容易で、ましてやサミット関係の書類を入れこむなんて簡単なことだ。

「正義って、なんだろうなぁ……」

コナン君、基工藤君はたとえ犯人でも死なせないというのが信念だ。でも、安室さんは違う。国を守るのが仕事であり、テロを起こされた時点で安室さんを含む公安はその時点で負けたということになる。国を守るためならば多少の犠牲は厭わない。そういう考え方だって、間違っては無い。
コツン、と足音がして、店内に戻ってきた安室さんは後手で扉を閉める。そちらに視線を向ければいつもより少しだけ冷たい目をした安室さんがいた。安室さん、というよりは降谷さんだろうか。

「大変ですね」
「何がですか?」
「降谷さんのお仕事」
「……この事件も、知ってるんですか」
「想像にお任せしますよ」

パン、と両手を合わせて御馳走様でした、と呟く。箒と塵取りを片付けて来た安室さんはまたカウンターの中へと戻って、小さな声で私の名前を呼んだ。

「前から気になっていたこと、聞いてもいいですか?」
「……私が答えられることなら」

スッ、と降谷さんの目が細められて、私は対照的にんまりと口角を上げる。ポアロに盗聴器系が無いことは目の前の彼がよく知っているだろうし、私自身を調べられても何も情報が出てこないのは彼だって知っている筈だ。何より、前に一度調べられている。質問を待つ私を見た安室さんは、怪訝そうな顔を浮かべた。

2018.04.02
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