「ホントにこれ着るんですか…?」
「嫌なら外で待っててもらっても大丈夫ですよ」
「分かりましたよ着てきます着ればいいんですよね」
安室さんから受け取ったソレを持って、とりあえず女子トイレに入る。東都水族館に入るにはやっぱり着るしかないか、と諦めて、安室さんにもらったソレに袖を通す。
真っ白で統一された海軍水兵を連想させるソレは、水族館に潜入するには持って来いかもしれないけれど仕事じゃなくて着るとなるとコスプレでもしているような気分だ。スカートで無いことが救いだろうか。
「…着ました、けど」
「似合ってますね」
「なんで安室さんは作業服なんですか!?」
「こっちの方が裏口には入りやすいんですよ。作業もしやすいですしね」
東都水族館の真っ白な制服を着ている私とは違って、安室さんは清掃業者を連想させるような作業着だ。まぁ、確かに裏口をウロウロするにはこっちの制服だと少しばかり目立つだろう。
「それで、呉羽さんはどうするんですか?」
「秀一さん探すなら安室さんと一緒にいた方が探しやすいかと思うので同行する気満々ですけど」
「じゃあ、ちょっと人質ってことになってもらいましょうか」
いいですよね?そのぐらい。そう言って、ガシリ、と私の腕を笑顔で掴んできた安室さんに私は苦笑いを浮かべた。
+ + +
サウスホイール側の、観覧車内部を移動する。通路を走り、階段を駆け上がって。女の子がいるというのにそんなこと気にした様子もなくガンガン移動していく安室さんを後ろから少しだけ殴りたくなったのは、ここだけの話だ。
「ここから移動がちょっときつくなりそうですけど、大丈夫ですか?」
「階段もペース落とさずに駆け上がっていった人に言われたくない、です…ね!」
こっちはウォッカとの鬼ごっこもした後なんだけどな、と思いつつ、手すりに飛び乗る。安室さんは私のことは大丈夫だと判断したのか、容赦なく先の二輪式大観覧車のレールの上へと上がった。
「これで先回りは出来た筈だが……」
安室さんがそう呟くのと同時に強い風が吹く。その風が、私と安室さんの帽子を飛ばす。飛んだ帽子の先、ノースホイール側に一つの影が見えた。私は安室さんと同じようにレールの上に立ち、その人影が誰なのかを確認して苦笑いを浮かべる。
飛ばされた帽子を見たからか、その人影はこちらを向いた。
(コレ怒られるかなぁ…)
一応帰れと言われているだけに、なんとも言えない気分だ。やはり来たか、と安室さんが言って、上着を脱ぎ捨てる。上着は帽子と同じように風に飛ばされて、夜の闇へと消えていく。
ゆっくりと逆方向に動くレールは少しずつ二人を近づけて、けれどもお互いに探りあうように黙ったままだ。
「ヤツがここにいるってことは、やはりアレは……」
先に口を開いたのは、安室さんだった。倉庫でのことを思い出すように、安室さんが秀一さんを見る。刹那、二人を見比べていた私と秀一さんの視線が交わる。その瞬間、彼の眉間にシワが寄せられた。が、予想はしていたのか視線をすぐに安室さんへと戻した。
「アレが貴方の仕業なら、ここに来ると踏んでましたけど…聞かせてくれませんか?僕達を助けた了見を。あんな危険をおかさなくても、ヤツらの情報を盗み聞くぐらいは出来たはずですよね?」
「わざわざ呉羽を連れてこんなところまで来て、お喋りに来たのかな?」
「えぇ。FBIに手を引けと言いに来たんですよ。キュラソーは我々公安が貰い受けるとね。呉羽さんは言わば人質ですよ」
「きゃっ……!」
安室さんが私の腕を掴んで、引き寄せる。一瞬脚を踏み外しそうになったのをなんとか堪えて立てば、安室さんは秀一さんに見せつけるかのように私の腰を引いて。ちらりと秀一さんを見れば、眉間にシワを寄せて恐らく安室さんを睨んでいた。その視線の先が私ではないと思いたい。
「…呉羽」
「……ですよね」
名前を呼ばれただけで、彼が何を言いたいのか分かる自分が悲しい。私は小さく息を吐いて内心安室さんに謝罪をする。そして、安室さんのお腹に容赦なく肘を入れた。
2016.04.29
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