飲まれたのは誰だ
飲んで飲まれての警部視点
会計を済ませて、かなり酔いが回ってきている部下の元へと戻った。が、その部下はすでに机に突っ伏して眠っていた。
「おい苗字、起きろ」
「んんー……」
眉根を寄せて苗字が少しだけ唸る。が、起きることはなくまた寝息を立て始める部下に息を吐く。駄目だなこりゃあ、と思うのと同時に男と同じペースで飲ませるんじゃなかったかと後悔する。が、もう遅い。
「後でセクハラとか騒ぐなよ」
眠る苗字の身体を抱えて、彼女の鞄を取って店を出る。刑事である以上護身術などはきちんと身につけていてそれなりに筋肉があるだろうに食ってんのかコイツは、と思えるぐらいには軽い。
(一応コイツも女だからな……)
一般的に見て口が悪いですあろう俺にも平気で寄ってくるしさらには言い返したりしてくるだけにあまり意識していなかったが、思っていたよりも華奢な身体は苗字が女だということを再認識するには充分だった。部下に変な気を起こすつもりはないが、人によってはこれはなかなか大変そうだ。
「ん……」
苗字の顔が、擦り寄るようにして俺に寄りかかる。そういえばコイツの家は知らねぇな、と思い、店を出たがどうするべきかと息を吐く。連れて帰るしか、ないだろう。いくらそこら辺の女子供より強かろうと酔っ払った部下をその辺に捨てて帰るほど俺は非情じゃない。
適当に道路を走るタクシーを止めて、後部座席に乗り込み自分の家の住所を告げる。苗字は、俺に寄りかからせるようにして隣に座らせて。
(にしても爆睡してやがるな……)
一応は女であるのにここまで寝るのもどうなのか。職場が職場なだけに、女に飢えたような男ならごマンといる。他の野郎だったらどうするつもりだったのか。そんなことを考えながら、安心しきったように眠る彼女の頭を撫でた。
+ + +
「いい加減少しは起きろ、」
「っ……んー…」
風呂から上がって眠っている苗字に声をかけるが、余程深く眠っているのか小さく声は漏らすものの起きる気配はない。帰って来るなりとりあえず俺のベッドに寝かせたが、ジャケットも脱がずにそのままな為窮屈ではないのだろうか。
「襲うぞ、バカが…」
「うー……?」
ベッドに座って苗字の頭を少し乱暴に撫でれば、眠たげに瞼を開ける。が、焦点が定まっていないところを見ると意識はハッキリしていないのだろう。
「ジャケット脱げ。動きにくいだろ」
「ん……」
眉間にシワを作りながら、もぞもぞと彼女がジャケットを脱ぐ。脱ぐだけ脱いで動かなくなった彼女に呆れて息を吐き、そのジャケットを取る。ハンガーにでもかけておけばいいだろうか。そう思いつつベッドに転がるコイツをどうするか、と思った瞬間、再び彼女が瞼を開ける。
「おい、起きてるならせめて端に行け端に」
「…………」
「苗字?」
まさか吐くか?そう思い苗字の顔を覗き込んだ瞬間。苗字から伸びてきた腕と、同時に随分と久しく感じる触れたそれに息を飲む。何をどう寝惚けているのか。惚れた男とでも、間違えたのか。酔っぱらい相手に怒鳴るわけにもいかず、だからと言ってどうしていいかも分からずに離れてイタズラが成功した子どものように笑う苗字の顔を見る。
「奪っちゃったー、」
頬を染めてまどろんだ目で呟く苗字の焦点が定まっていないところを見ると、寝ぼけていて起きた時には覚えてないだろう。パタリと腕がベッドに落ちて、またすぐに寝息を立て始める。キスのひとつやふたつで騒ぐ年でもないが、これはどうなのか。言わない方が彼女の為か。そんなことを考えながら、彼女をベッドの端へと寄せた。
+ + +
「そんな驚かなくても俺からは何もしてねぇよ」
俺の言葉に安心したような顔をするのと同時に飲み屋からここまでただ運ばれただけだと思っている苗字に少し呆れて息を吐く。言った言葉に、嘘はない。俺からは何もしていない。俺からは。
「連れてこられた猫みたいだな」
挙動不審に何をしていいか分からずにこちらを見ている姿は、どこか見知らぬところに預けられた猫のようだ。いつもの減らず口はどこに行ったんだか、と思いつつ苗字にシャワーを進めた。
2016.09.09