きっかけはほんとうに小さなことで、これが恋に繋がるなんて、この時はちっとも、これっぽっちも、思い付かなかった。



◇ ◆ ◇



入隊一年目の私は狙撃手だった。入隊当時は元々高かったトリオン量と集中力で期待され、流れるように東さんに弟子入りをした。
東さんの指導は的確で、通常射撃訓練なら100発100中と言っても良いぐらいに命中率はあがったけれど、実践形式になればなるほど精度が落ちて、焦った私は所謂《スランプ》っていうのになってたんだと思う。
年下で同期入隊の佐鳥はどうやら狙撃手が天職だったようで、どんどん才能を開花させていくのを隣で見て、すっかり参ってしまっていた。
私を見かねた東さんが、
「太陽、無理に続けなくてもいいんだぞ」
なんて言ってくれた時には、私の心のダムがガラガラと崩れ落ちて、
冷静に考えてみれば、もっと広い意味で捉えられたはずなのに。
後悔先に立たず。
「無理なんてしてない!東さんもっとちゃんと見て言ってよ!」
勢いよく出てしまった感情に耐えられなくなった私は、射撃場から逃げ出してしまった。なんて情けない。東さんはしっかり見てくれてるのに。気にかけてくれたのにあんな言葉を吐くなんて。
一人になるとどんどん出てくる嫌な気持ちに辛くなって、ラウンジのソファーに腰を下ろした。ブースでは出水くんが烏丸くんと闘ってる様子がモニターに写されていて、二階の手すりに寄りかかりながら見物する太刀川さんと風間さんが見える。
ソファーの周りには誰もいなくて、考えるのには持ってこいだった。
東さんに言われた言葉を反芻する。

「…向いてないのかな、」
「何が」
「ッうわぁ!?」

こぼした呟きを誰かに拾われるなんて思って居なかったせいで、間抜けな声を出して飛びはねた。向かいにどうやら先客がいたようで、ソファーの背中越しにむくりと人が起き上がった。あくびをこぼした彼はあまり話した事がないけれど、ほぼ同時期に入隊した男の子だった。

「…影浦くん。」
「何が向いてねえんだよ。」

眠気覚ましに聞いてやるから、辛気クセェため息止めろと、私に背を向け座り直した彼に、とにかく限界をむかえていた私はゆっくりと話始めた。

「スナイパーが臆病な私に向いてるんじゃないかと思ったの。
攻撃手も射撃手も敵に近づかなくちゃでしょ?私ね、その場で考えるのがすごく苦手なの。焦って、混乱して、失敗しちゃう。
だから落ち着いて考えられるスナイパーの方が良いって。
でも練習を重ねて、的にしっかり命中しても、実践形式じゃ一向に上手くならなくて、東さんからアドバイスをもらっても、何日も何時間も練習してもちっとも上達した気がしなくて。
いつか出来るようになるって、頑張りが足りないんだって続けてたんだけど、今日東さんに八つ当たりしちゃって、」

言葉にすればする程不甲斐なさが増してきた。
実力がないのは私のせいだ。東さんも佐鳥も悪くない。なのに子供みたいにあたって、逃げ出して、
ソファーの上で膝を抱えてうずくまる。誰の顔も見たくなかった。

「最低だ。」

八つ当たりをしたことも、誰かに弱音を吐いてしまう自分も、

「…戦う時、難しいこと考えてねえ。」
「え?」
「相手が来たから迎え撃つ。クソ能力のせいもあるが狙撃手が狙ってくんのが分かったんならそいつ追っかけてぶっ飛ばす。
俺はあんま頭よくねえから、戦う時は相手に勝つことしか考えてねえ。
つーか多分、太刀川とかもそうだろ、アイツ馬鹿だし。」

先輩に向かってそれはどうなんだ、と思いながらも、彼の言葉を遮らず、しっかりと耳を傾ける。ソファに腰かける彼の肩ごしに、目があった。

「だからボーダーが向いてねえ訳じゃないんじゃねえの?」

鼻の奥がツンとした。言うだけ言って眠気も覚めたのか、立ち上がった影浦くんにお礼を言おうとしたら、コツリと額に何かが当たって落ちた。

「やる。」

じゃーな、と離れていく背中を眺めながら、手の中に落ちたピンク色のキャンディを見つめてみたら。
モヤモヤとしたものが少しずつ晴れてきたような気がした。

「東さんに謝ろう。それから…」

攻撃手に、転向してみようかな

射撃場に向かいながら口に入れたキャンディは桃の味がして、真っ黒な彼と全くあってないじゃないと、面白くて、甘かった。

キャンディひと粒

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